高橋葉介『マンイーター』ぶんか社 1997年

 さまざまなタイプのホラー短編11編を収録しています。気に入った作品についてコメントします。

「人喰い(マンイーター)」
 狩りはいつもたやすい。獲物はいつも向こうから声をかけてくる。私は“マンイーター”…
 血塗れの全裸美女…“絵”で見せるホラー作品ですね。主人公が獲物(男)を喰らうシーンは迫力があります。それにしても,この手のモンスタにとって,「子づくり」は命がけのパターンが多いですね(まぁ,人間もそうですが…)。
「お気に召すまま」
 私の恋人タカヒロは理想が高い。だけど私は負けない。なんでも彼の好みに合わせてみせる…
 以前,結婚式場の広告だったと思いますが,白のウェディング・ドレスをまとった女性のバスト・アップ,そしてキャッチ・コピーが「あなた色に染めて」でした。それを見ながら「たまらんなぁ」と思った記憶がありますが,そんなポスタにあるような,ある意味で「ありがち」な話を思いっきり極端に展開させたブラック・コメディです。ラストのタカヒロのセリフには苦笑してしまいます。
「パパはあなたが嫌いみたい」
 娘の恋人を迎えに来た父親。男手ひとつで育てたひとり娘を手放したくない父親は…
 これまた「娘の恋人vs父親」という「ありがち」な話の極端ヴァージョン。ミステリっぽい展開とアイロニカルなオチがおもしろく読めました。それにしてもこの父親にこの娘,あきらかに娘は母親似ですな(笑)。
「似たもの同士」
 私とあの女は小さなときからライバル同士。ところが,自分が傷つくと相手も傷つくことに気づいたときから…
 本当に怖いのは,いつも最後に「利」を得る「漁夫」なのでしょう。でもその顔立ちが,『学校怪談』に出てくる,わたしの好きな立石双葉嬢そっくりなのが,ちょっと哀しい……^^;;
「首を吊っているのは誰?」
 暗い廊下を歩いていると,隣を通り過ぎる女の子。足音も聞こえず,彼女の足下は宙に浮き…
 作者自身,「あとがき」の中で「何がなんだかさっぱりわからん」と書いてますが,ホント,わけわからない作品です(笑)。でもそれでいて,なんともいえぬ不気味さとブラックなユーモアが感じられる内容で,なぜか(自分でもきちんと説明できぬままに)本書中一番気に入っているエピソードです。
「猫の実」
 暑い日,学校をさぼって彼女が見つけたのは女の死体だった…
 この作品と,あとの2編(「フタバ」「コイン・ロッカー・ベイビー」)の主人公は,同一人物のようです。作者曰く「(中年男をたぶらかすやつじゃない)セーラー服を着た小悪魔」です。3編の中では,この作品がいいですね。死体から生えた草が実を付けて,そこから生まれたモンスタが復讐するというパターンは,どこかで見たことあるような気もしますが,「途中で肥料を変えた」という奇想と,ラストの「ワクワクする」という主人公の心持ちの不気味さが,作品に不思議なテイストを与えているように思います。

99/01/23

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