岡崎二郎『国立博物館物語』2巻 小学館 1998年

 東京の一角にある「新東京博物館」を舞台にした連作短編集の第2巻です。大自然の不思議や,博物館のニューロチップ・コンピュータ“スーパーE”にまつわるエピソード,21話を収録しています。

 最初の2編,「ハチミツの味」「桜の恩返し」などを読むと,なにやら小学生の頃に読んだ「学習マンガ」みたいなノリで,いまひとつ物足りないものを感じたのですが,そこはそれ,やはりこの作者,根っこは「Spirits of Wonder」でして,たとえば「フグの毒」
 フグの毒というの,フグが本来持っていた毒ではなくて,食物連鎖の果てにフグが食べた餌に蓄積された結果,できたものだそうです。それだけだったら,それこそ「学習マンガ」なのですが,最後にひとひねり,SF的オチが用意されていて,楽しめます。
 また「バイオツリー」は,金食い虫で,商品に結びつかない研究ばかりしている企業の研究員が主人公のエピソードです。ふがいない彼が父親として,娘に用意したのは世にも不思議なクリスマス・ツリー。『アフター0』に収録されていてもおかしくない,ファンタジックでハート・ウォームな作品です。

 この巻でのお気に入りは,博物館地質部の面々がカツヤマリュウという恐竜の発掘をするというエピソード2編「希少価値」「腓骨骨折」です。
 「希少価値」の方は,せっかく恐竜の骨が発見されたのに,民間企業の土地であるため,発掘権を奪われ・・・,というお話。恐竜の化石が高額で取り引きされるという話は,以前テレビで見たことがありますが,本編のラストで,カツヤマリュウのより保存状態のいい化石が発見されて,化石で儲けようとした企業が大損するというところは,滑稽というか,欲にとりつかれた人間の愚かさみたいなものが感じられます。
 また「腓骨骨折」は,現代の殺人事件と発掘を絡めた作品で,ミステリ好きのわたしとしては,楽しい作品でした。それにしても,骨折した恐竜が家族(?)によって養われたという仮説はちょっと面白いですね。

 本巻ラストは「恐竜最後の日」。“スーパーE”の中で成長を続けるバーチャルな恐竜世界。現実には6500万年前に突如滅亡してしまった恐竜たち。もし破滅が訪れなければどうなっていたのか・・・という内容。弥生たちが恐竜たちの瞳の中に発見したのは「好奇心」そして「知性」でした。恐竜たちが滅亡しなければ,現在の哺乳類の役割を担っていたかもしれないという想像は,なんとも痛快です。そしてその根元の「力」を「好奇心」としたところがいいですね。「好奇心」という,いわば生存には本来不必要なもの,「好奇心は猫も殺す」という言葉があるように,ときとして生きるための障壁になるかもしれない「力」,もしかするとそれこそが,「文化」とか「文明」というものを築き上げる原動力なのかもしれません。だからこそ,「文化」や「文明」には,一方で,「生」の本来的なあり様を変形させてしてしまう「力」を持っているのかもしれません。
 タイトルからして,もしかするとこのシリーズのフィナーレかもしれないのが,ちょっと残念です。

98/10/16

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