高橋葉介『金目童子』朝日ソノラマ文庫 2000年

 亡き母からもらった金色に輝く目,妖怪変化,魑魅魍魎を見ることのできる不思議な目をもつ少年・金目童子は,巫女の銀姫,僧侶の紫銅とともに,妖怪退治の旅を続ける・・・

 というわけで,文庫版「ヨウスケの奇妙な世界」の第19集です。この作者のデビュウ当時からのファンとしては「ごく最近の作品」というイメージが強いのですが,それでも初出は10年前。歳をとると,月日の流れ方はなんとも早いものであります(笑)。

 さて本シリーズは,主人公が少年ということもあるせいか,子どものネタの妖怪のエピソードが(とくに前半)多いですね。たとえば最初の「第一話 心臓喰いの巻」では,子どものが心臓を喰らうの大好きという,じつにアブナイ夫婦が登場します。彼らに心臓を喰われて死んだ少年少女の幽霊の姿が,恐ろしげでもあり,また哀しくもあります。「第二話 銀姫と単眼鬼の巻」に出てくる単眼鬼は,かつて飢饉や旱魃の際に,山の神に生贄とされた子どもたちの怨念が凝り固まった鬼であります。また「第四話 産女の巻」では,子どもを産めないがゆえに死んでしまった女の霊が出てきますし,「第五話 四鬼地蔵」では,不吉な四つ子であるとして殺された少女たちの霊が「風鬼・火鬼・水鬼・土鬼」として,旅ゆく人々に襲いかかります。
 妖怪のひとつのありようとして,「虐げられた者たちの怨みの結晶」というパターンがありますが,「子ども」という存在は,社会的弱者の最たるものでありまして,それゆえ,大人以上に妖怪になりうるポテンシャルを持っているのかもしれません(意味は多少違いますが,子どもが「七歳までは神のもの」と言われていたこととも響き合うのかもしれません)。ですから「子どもの妖怪」というのは,どこか哀しみがともなうもののようです。

 ただ,作者としても「子どもネタ」を続けるのがしんどくなったのか,あきたのか,後半は普通の(?)「妖怪もの」へとシフトしていきます。「第五話 獏の巻」は,穏やかで,浮気する亭主にも,口さがない隣人にも,文句ひとついわない奥様の秘密は・・・というお話。やはりストレスは溜めすぎない方がいい,というじつに身に染みる教訓に満ちたエピソードです(苦笑)。「第六話 極楽鳥の巻」は,死人の魂を喰らう極楽鳥,それを飼っているのは金貸しの因業爺で・・・という内容。魂を「蝶」で表現するのは,この作者の定番と言えましょう。
 「第七話 井戸姫の巻」は,ややスラプスティク色が強いエピソードで,「乙姫」ならぬ「井戸姫」のキャラが圧巻です(笑)。「第八話 ヤドカリ妖怪の巻」は,貝ではなく人間に寄生する「ヤドカリ妖怪」が登場,前半はおどろおどろしげなのですが,後半から,これまたドタバタ・コメディといった感じで,エンディングもユーモアにあふれています。シリアスからしだいにコメディ色を強めていくところは,なんだか,少年探偵版の『夢幻紳士』を思い出させるようななりゆきになっています。
 そしてファイナルは「第九話 夢の行李の巻」「第十話 輪廻の童子の巻」です。不思議な行李の中で夢を見た童子,自分の父親の正体を知ります。そして母を苦しめた父を殺そうと,「夢」の中へ入り込むが・・・というエピソードです。じつはこのエンディング,すっかり忘れていました(笑)。たしかに最初のエピソードで「父を捜す」というのが,童子の旅の目的であることが描かれていますが,各エピソードが,その目的のために有機的に結びついているというわけではないので,その目的は,それほど重視されている観はありません。まぁ,その帳尻合わせ的なところがないわけではありませんが,なかなか幕引きの難しいこの手の作品としては,けっこう巧くまとめているのではないかと思います。

00/02/17読了

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