高橋葉介『仮面少年』朝日ソノラマ 1999年

 『夢幻紳士 マンガ少年版』から始まった文庫版「ヨウスケの奇妙な世界」シリーズの第8巻です。コミック版を持っていたのですが,いつまにやら行方不明になってしまい,長いこと読みたかった作品集です。この巻以降,この作者の初期短編が復刻されるようで,なんとも楽しみです。表紙も(レイアウトが変わっていますが)コミック版を踏襲していて嬉しいですね。

「仮面少年」
 仮面のように表情のない少年は,自分そっくりの仮面を見つけ…
 本書中で,いやさこの作者の初期短編で一番好きな作品です。筆線で描かれた切れ長の瞳の美少年には,「ぞくり」とさせる妖艶さが感じられます。また少年が見た夢―母親が仮面に口づけする夢―も淫靡ですね。「静かな狂気」を思わせるラストが秀逸です。
「我楽多街奇譚」
 廃墟のような「我楽多街」に住むタイム青年を主人公とした連作短編です。「頭に咲く花」「動物園にて」「私がいかにして引力と手をにぎったか?」の3編よりなります。いずれも奇想に満ちた作品ですが,その中でも,動物に逃げられた動物園が,替わりに動物に似た人間を募集するという,なんとも奇想天外な「動物園にて」が一番楽しめました。それにしても「頭に咲く花」に出てくる「猫ニャンニャンニャン,犬ワンワンワン,カエルもアヒルもグワッグワッグワッ」ってギャグ,むちゃくちゃなつかしいですね(ああ・・・歳が・・・<いまさら!)。
「新しい人形」
 今日はママが病院から帰ってくる日。赤ちゃんを連れて…
 少女の無邪気な残酷さ,そして(描かれざる)ショッキングなラスト。多少「読める」部分もありますが,そこはやはり,この作者の独特のタッチが効果的に働いて,不気味さを盛り上げています。
「ハイ,オカアサマ」
 オウムばかりをかわいがる義母に殺意を覚えた嫁は…
 ブラック・コメディを思わせる奇妙なラスト。刑事たちの会話を聞きながら,指の間から笑みを浮かべる主人公の女性の表情が凄みがあります。
「江帆波博士の診療室」
 太りすぎの男が,江帆波博士の手術で一夜にしてスリムになり…
 この作者のタッチで描かれる「肥満」は,本当に暑苦しいですね(笑)。そういえば,この作者,けっこう「肥満ネタ」があるように思います。
「触覚」
 同人誌の集まりで,グロテスクな絵ばかり描く男は,奇怪な話を始め…
 なんといっても,男の描くモンスタ(?)の不気味さがいいです。ただ楳図かずおの作品に似たような趣向のものがあったように思います。ラスト・ページの「絵」が,どの登場人物に当てはまるか想像してみると,楽しいですね^^;;
「惑星LOVEの崩壊」
 新婚旅行の途中,無人の惑星に不時着した新婚夫婦は…
 ナンセンス・コメディ。一番笑ったのが,「現総理,前総理,元総理」の写真です。またところどころに見られるパロディも楽しめます。
「荒野」
 彼はいつも同じ夢を見る。一人で荒野を歩く夢だ…
 この作品もお気に入りの一編です。奇妙で,ちょっと不気味でありながら,せつなくもまたハート・ウォームな短編です。展開が淡々としているところも作品を味わい深いものにしているように思います。

99/03/23

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