高橋留美子『犬夜叉』5巻 小学館 1998年

 まずは不気味系妖怪「蜘蛛頭(くもがしら)」です(第1話〜第6話)。身体は蜘蛛で,頭が人間。これは不気味です。とくに,部屋の天井にぞろぞろと固まりになって,犬夜叉たちを襲うシーンはたまりません。もともと小さな虫やら小動物やらが,集団に固まっているのを見るのは,もうそれだけでダメ,というわたしにとって,心底おぞましいシーンです。
 一時期,巷で流行った“人面犬”ではありませんが,人間の顔が人間以外の生物にくっつくというのは,なんともアンバランスで,グロテスク,気持ち悪いですね。3巻に出てきた「肉づきの面」も怖かったですが,これもかなり怖いです。この作者,けっこう不気味な妖怪を描くのがうまいですねぇ。
 このエピソードでは,犬夜叉の秘密がまたひとつ明らかにされます。新月の夜,半妖である犬夜叉は,妖怪の血の霊力が衰え,人間に戻ってしまうという秘密です。う〜む,この手の,主人公が一時期無力化するという設定は,よく見かけるパターンではありますね。でもって,その期間に危機に陥って,あわや! というときに復活するという,ストーリィを安易に盛り上げる常套手段でありますので,あんまり多用するとちょっと白けるときがあります。この「蜘蛛頭」のエピソードでも,しっかりそのパターンを踏襲しているんで,ちょっと先行き不安です。うまいことこの弱みを扱ってくれると嬉しいんですが。

 さて後半,第7話〜第10話は,かつての犬夜叉の“敵”桔梗をめぐるエピソードです。彼女によって,犬夜叉は50年にわたって磔にされるという苦い記憶があります。そして,かごめと瓜ふたつ,かごめは,桔梗の生まれ変わりのようです。その桔梗の骨が盗まれ,鬼女・裏陶(うらすえ)により復活するというお話です。
 犬夜叉と桔梗の関係,どうやら単なる敵同士,というわけではないようです。裏陶により復活した桔梗は,犬夜叉を「なぜ裏切った!」と罵倒し,ふたたび彼に向けて矢を放ちます。ふたりの間には記憶のズレがあり,誤解があるようです。いったい桔梗を裏切った“犬夜叉”とは何者なのか? 四魂の玉によって,犬夜叉が人間になれるとは本当のことなのか? 桔梗とかごめの関係は? と,本作品の基本設定そのものに関わる謎が,いよいよ出てきたという感じです。
 残念ながら,この巻では,このエピソードはまだ半ば。はたしてどのような決着がつくのかはわかりません。しかし,これからの展開を大きく変えるエピソードになることは,ほぼ間違いないでしょう(<本当か?)。

 ただこの巻になって,ちょっと「大ゴマ」が目立つようなところがあります。大ゴマは迫力はあるのですが,単なるページ稼ぎになってしまうと,ストーリィが冗長になってしまう危険があるので,少々心配です。

98/03/23

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