高橋留美子『犬夜叉』20巻 小学館 2001年

 鉄砕牙を使いこなすため,強敵・竜骨精に挑みかかるが,その圧倒的なパワーの前に苦戦する犬夜叉。しかし,妖怪の血をみずからの意志で押さえ込んだとき,鉄砕牙は,正真正銘,犬夜叉の「武器」となった! そして奥義「爆流波」が,竜骨精に向けて炸裂する!

 本巻前半は,前巻からのつづき「竜骨精編」であります。このエピソードのポイントは,やはり,竜骨精との闘いの最中,鉄砕牙を手放してしまったため「変化」してしまった犬夜叉が,その「血」を押し殺し,みずからふたたび鉄砕牙を手にするシーンでしょう。「変化」は,犬夜叉を強力にするとともに,分別を失わせ,かごめさえも襲いかねない「諸刃の刃」です。それを自分でコントロールできるようになったことは,犬夜叉の新たな成長を意味しているのではないかと思います。だからこそ,掌中におさめた鉄砕牙が「軽くなっていく」のでしょう。いわば「発散させる強さ」だけでなく,おそらくよりエネルギィを必要とする「抑制する強さ」を,犬夜叉は手に入れたとも言えるでしょう。
 ただちょっと気にかかるのが「奥義・爆流波」の登場です。「あ,必殺技のインフレーション」と思ってしまったのは,わたしだけでしょうか? より強力な敵により強力な必殺技・・・格闘系の作品がしばしば見いだせるパターンですが,そのような悪循環に陥らないことを祈ります(まぁ,かなりキャリアのある作家さんですから,そこらへんはきちんと見極めていると思いますが・・・)。

 後半は「黒巫女 椿編」です。50年前,桔梗との戦いに敗れた黒巫女・椿が,奈落のサポートを得て,犬夜叉とかごめに襲いかかります。椿の邪気を感じ取った桔梗が,その戦いに介入し・・・というお話。むちゃくちゃ好みですねぇ,椿おねーさま(笑)(でも,なんで額に「貝殻」(?)付けてんだろ?(^^ゞ)。で,巧いな,と思ったのが,その登場シーン。最初は,椿,老婆なのですが,それが妖力で若返ります。その若返った椿の姿が,カラーの最終ページのコマにきっちりと配分されるあたり,この作家さんの場面構成の円熟ぶりを端的に示していますね。
 さてこの黒巫女・椿,西洋風に言えば「ブラック・マジシャン」といったところ。対する,生前の桔梗は「ホワイト・マジシャン」なわけです。ヴィジュアル的には,上に書いたように好みなのですが,どうもいまひとつ強くない(笑)。呪詛をかけて,かごめをして,犬夜叉に弓を引くシチュエーションに引きずり込むわけですが,桔梗に脅されれば,けっこう弱気になりますし,起死回生の式神も,かごめの弓の一振りで,あっさり逆転。奈落に「使えん女だ・・・」などと,一言で済まされてしまいます。もうちょっと頑張ってほしかったなぁ・・・
 でもこのエピソードの眼目は,桔梗と犬夜叉の「愛するもの同士の殺し合い」という苦い過去を克服することにあったのでしょう。椿の呪詛に操られながらも,かごめは最後まで犬夜叉を傷つけることなく,またラストで「好きで一緒にいるんだから・・・」と犬夜叉に告げます。それはかごめが桔梗ではない,犬夜叉とかごめの関係は桔梗との関係とは異なるということを示しているのではないかと思います。

01/03/26

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