高橋留美子『犬夜叉』17巻 小学館 2000年

 犬夜叉の鉄砕牙をかみ砕いた悟心鬼の牙が,邪刀“闘鬼神”として蘇り,ふたたび犬夜叉たちに襲いかかる。おりから,月の“朔”のため,妖力を失っている犬夜叉。おまけに,刀々斎によって修理された鉄砕牙は重すぎて,うまく使いこなせない。はたして犬夜叉に勝機はあるのか?

 というわけで,本巻前半は,前巻からのつづき「邪刀・闘鬼神編」であります。
 前巻で鉄砕牙犬夜叉との関係をめぐる秘密が,新たに明らかにされました。つまり「鉄砕牙は犬夜叉の変化を抑えている」ということです。けれども,犬夜叉は「新生・鉄砕牙」を十分に使いこなすことができません。使いこなせなければ敵に勝てない,しかし手放せば,妖怪に変化してしまう・・・こういった主人公をめぐる「ダブル・バインド」的なシチュエーションは,オーソドックスとはいえ,ストーリィに緊迫感を与えますね。ここらへんのお話作りは,やはりこの作者,巧いです(もっとも,犬夜叉は鉄砕牙の秘密を知らないので,ダブル・バインドになるのは,もっぱらかごめたち周囲の人間なんですが・・・)。
 一方,闘鬼神を手にした殺生丸は,犬夜叉の変化の予兆を感じ取り,切り込みをためらったために,犬夜叉たちに逃げられます。この殺生丸,闘鬼神と天生牙という,その性格がまったく異なる二本の刀を掌中に収めたことになります。また奈落の分身風使いの神楽が,殺生丸に対して,「あんたならもしかすると・・・奈落を殺せるかもしれないね・・・」と言います。犬夜叉vs奈落の戦いに,殺生丸が参戦することの伏線でしょうか? そして殺生丸の二本の刀が,その戦いの中でどのような役割を果たすことになるのか,が,気になるところであります。
 それにしても犬夜叉,新生・鉄砕牙を使いこなすためには,やっぱり身体を鍛えるしかないんでしょうかね(笑)

 後半は,奈落の四匹目の分身が犬夜叉たちを襲う「獣郎丸・影郎丸編」であります。この獣郎丸の登場シーン−轡と鎖に封印された姿は,なんだかホラー映画に出てくるモンスタのような不気味さがありますね。以前,この作品に出てくる妖怪を「攻撃系」と「不気味系」とに分けたことがありますが,この獣郎丸&影郎丸のコンビは,その両方の雰囲気を兼ね備えているように思います。歌舞伎役者を思わせるハデ目の衣裳と,人形のような無表情さもグッドです。
 さてこのエピソードには,久々に妖狼族の若き首領鋼牙が絡んできます。いったんは獣郎丸の不気味さに逃げた彼ですが,かごめが襲われるやもしれないことに気づき(というか,手下から教えられ(笑)),彼らの戦いに参入します。パワァの獣郎丸&スピードの影郎丸コンビに対抗するためには,犬夜叉だけではなく,やはり強靱な脚力をもった鋼牙が必要なのでしょう。こういった「適材適所」とも言えるキャラクタ配置の妙も,この作者ならでは,といったところです。
 さてさて,「犬っころ」「痩せ狼」の,にわかタッグ・チームは,いかなる戦いを見せてくれるでしょうか?

 本巻で,思わず笑ってしまったのが,つぎのセリフです。
「犬夜叉はおまえにかごめを奪われると思ってあせっとるだけじゃ。いっつもこんなだと思ったら,大間違いじゃぞ」
・・・・八宝ちゃん,そんな身も蓋もないこと言っちゃ・・・^^;;

00/08/19

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