高橋留美子『犬夜叉』16巻 小学館 2000年

 犬夜叉たちに襲いかかる奈落の分身,“風”と“無”の姉妹。みずから放った鉄砕牙の一閃に傷つき力つきる犬夜叉。絶体絶命の彼を救ったのは,やはり,かごめの一矢だった・・・

 さて本巻前半は,前巻からのつづき,神楽神無姉妹との戦いです。農民を操り,犬夜叉たちに襲いかかる神楽,そして不可思議な鏡で,人の魂を抜き取る神無。さらに犬夜叉が放った鉄砕牙のパワーは,その鏡によって跳ね返され,犬夜叉は重傷を負います。そんな瀕死の犬夜叉を救ったのが,かごめであります。これまで彼女の“聖なる力”は何度か発現しましたが,今回もまた,周囲の人々が想像するよりはるかに強力な形で現れます。とくに今回は,かつて鬼女裏陶のエピソードで描かれた「魂の大きさ」が,ふたたび犬夜叉たちの危地を救います。この彼女のポテンシャルな力が,果たして戦いにどのような役割を果たすのか,気にかかるところであります。
 気にかかるといえば,このエピソードの終盤,桔梗奈落に,「四魂の玉」を手渡していたことが,犬夜叉たちに明らかにされます。桔梗はいったいどのような思惑があって,そのような行動をしたのか? 彼女は言います。
「私が奈落を,四魂の玉とともにこの世から消し去る」
と。彼女は,いわば「賭け」に出ているのではないでしょうか? 奈落と四魂の玉は,いずれも桔梗が,かつて消し損ねたものです。このふたつを合体させ,両者を一気に葬り去る,それが桔梗の思惑なのでしょうか? それは一方で「危険な賭け」でもあります。完全な四魂の玉を掌中に収めた奈落が,どれだけ強大な力を持つようになるのかは,いまだはっきりしません。しかし,神楽や神無,そして本巻後半に出てくる悟心鬼といった「分身」が持つ強さは,その一端をほのめかしていると言えましょう。そんな奈落を桔梗は倒せるのか? そして犬夜叉やかごめは,その戦いにどのような形で関わるのか?
 もしかすると物語は,終結へ向けてゆうるりと動き出しているのかも知れません。

 さて本巻後半は,奈落の三番目の妖怪悟心鬼をめぐるエピソードです。悟心鬼との戦いで,鉄砕牙を折られた犬夜叉は,思わぬ“自分”を見いだします。それは,闘うこと,相手を殺すことに喜びを感じる「妖怪」としての自分です。
 「半妖」としての犬夜叉は,不安を持っています。それは「自分が強くないばかりに,かごめが殺されてしまうかもしれない」という不安です。そのために彼は強くなろうとします。しかしその結果,つまり妖怪となり強くなった結果,今度は「自分がかごめを殺してしまうかもしれない」という新たな不安を抱え込むことになります。ふたつの,逆の方向の不安に心を切り裂かれる犬夜叉を,かごめはいかにして癒すことができるのか? 戦いの行く末だけでなく,このあたりの今後の展開も目が離せません(とりあえずは「おすわり」で,その場はしのげるようですが(笑))。

 で,鉄砕牙ネタとなれば,やっぱりお約束のように顔を出すのが,おにーちゃんこと殺生丸であります。なんだか妙に明るくなったりんちゃんとともに,さてさて,今度はどんな風に犬夜叉にちょっかいをかけるのでしょうか?

00/06/30

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