高橋留美子『犬夜叉』13巻 小学館 1999年

 桔梗の放った一矢により,犬夜叉は蠱毒の巣から危機一髪で逃れることができた。しかし,奈落は新たな身体を得,また桔梗をさらっていく。桔梗を追う犬夜叉たちの前にふさがる奈落の仕掛けた幻影の罠。そこでかごめは,桔梗の真意を知る・・・

 まずは「奈落桔梗遭遇編」のつづきであります。このエピソードで,桔梗かごめに対する殺意を明確にします。
「おまえは私だ・・・この世に在るのはひとりだけでいい・・・」
 そこには,かつての清浄なる巫女・桔梗の姿はありません。犬夜叉を憎むがゆえに(それは「愛するがゆえに」と同義です),かごめを抹殺しようとする,おそるべきひとりの女の姿が立ち現れています。
 しかしまた彼女は言います。
「愛することも憎むことも・・・私の魂はあの頃よりずっと自由だ。」
と。清浄なる巫女であるからこそ,愛する犬夜叉を癒すことも,救うこともできず,彼を矢で射殺さねばならなかった彼女にとって,その清浄さからの自由こそが,たとえ超常的な力を持つにしろ,ひとりの女として犬夜叉を憎むこと=愛することのはじまりなのかもしれません。たとえそれが,犬夜叉を,みずから住む「死の世界」へと導くことであったとしても・・・ならば,彼女は「妖怪」なのでしょうか? それとも巫女であるときよりもはるかに「人間」らしいのではないでしょうか?

 さてこのエピソードでは,もうひとつ重要なことが明らかにされます。桔梗が奈落に向かって言います。
「なにしろ・・・誰よりも四魂の玉を必要としているのはおまえだろうからな。妖怪 奈落・・・いや・・・半妖・・・奈落・・・」
 をを! やはり奈落は半妖だったのです(予想が当たりました!)。さまざまな策を弄し,けしてみずからを戦いの場に置こうとしない奈落,それは彼が半妖だからだったのでしょう。やはりこの作品は,「四魂の玉」をめぐるふたりの「半妖」の物語へと収束していくのではないかと想像させます。かたや四魂の玉により人間になろうとする犬夜叉と,かたや妖怪になろうとする奈落との闘争の物語へと・・・

 本巻後半は,「鉄砕牙の秘密―風の傷編」であります(勝手にサブ・タイトルをつけるのも,だんだん苦しくなってきました(笑))。あの,凶暴なおにーちゃん殺生丸が,三度,鉄砕牙を狙って,犬夜叉に襲いかかります。で,そのきっかけとなったのが,鉄砕牙をつくった妖工刀々斎。まだこのエピソード,完結していないので,感想は次巻に回しますが,この作者,一癖も二癖もある老人というキャラクタが好きそうですね。『うる星やつら』「錯乱坊(チェリー)」とか,『らんま1/2』「八宝斎」とか・・・ この刀々斎も,お茶目なんだか,調子がいいんだか,底意地が悪いんだか・・・なんとも味のあるキャラクタですね(笑)

99/11/27

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