今市子『百鬼夜行抄』12巻 朝日ソノラマ 2004年

 この作品は,これまで文庫版で読んできましたが,今回はじめて大判を購入。で,つくづく思いましたが,この作家さんの絵柄は,明らかに「大判向き」です。文庫版になると,彼女の細密なタッチは,どこか「煩雑さ」が出てしまい,読んでいて,正直,目が疲れてしまいます(笑) やはりマンガは,文庫版よりコミック版,コミック版より掲載雑誌で読むのが「本道」なのでしょうね。
 シリーズ5編のほか,巻末に「夜行する神様達」というタイトルのエッセイ・コミックが収録されています。

「白い顎」
 母親の代理で,親戚の家を訪れた律は…
 このシリーズ各編には,どこか「予定調和はずし」みたいなところがあります。その「はずし」が,人間とは異なる「妖魔」の特質として描き出される場合もあります。本編に登場する「子どもの幽霊」もまた,オーソドクスな展開からすれば,律の「産まれなかった兄」(<ネタばれ反転)となるところを,ラストで見事にはずし,ユーモアとともに,奇妙な,このシリーズならではの手触りを醸し出しています。ところでこのタイトル「あご」というルビがふってありますが,「あぎと」の方が適切なのでは?
「夜泣きの桜」
 律は,従姉の司のBFと花見に出かけることとなったが…
 にボーイフレンドが登場して,心中穏やかならざる律であります(笑) 物の怪がたくさん取り憑いている「住んでいる人の気が知れないね」と言われた家が,じつはBFの実家というところでの,飯島家ご一行の顔つきが笑えます。それと,今回出てくる,人の悪口・陰口を言いまくる妖魔,これって,なんだか「真夜中の空転思考」に近いものがありますね。真夜中の考え事って,どうしてもネガティヴにネガティヴに走ってしまうところがありますから。
「水辺の暗い道」
 司とともに,何物かに取り殺される男に遭遇した律は…
 本集には5編が収録されていますが,いずれもページ数がばらばら。これも編集部の方針なのでしょうか? 本集で一番長いエピソードです。オープニングでの律の見た夢,律と司が立ち会ってしまった男の奇怪な死,“役員”が“連れてきてしまったモノ”とは何なのか?…といったミステリアスに進行する展開が,個人的にはツボです。また前回ボーイフレンドができた司と律との関係が,恋愛関係をクリアするような形で,新たに再確認されるところが,このエピソードの眼目なのでしょう。それと,もしかすると律のガールフレンド候補らしきキャラとの今後の成り行きが注目されるところです。
「蜘蛛の糸」
 双子の妹リカに,いつも振り回されるばかりの国代は…
 素材としては,わりと「ありがち」なパターンと言えましょう。ただそうすると,どうも矛盾するかもしれないと思われる描写があるのですが,読みかえしてみると,ギリギリ・セーフかな?という気もします(ネタばれ反転>リカが国代だけに見える存在だとすると,リカによって恋人との関係が破綻してしまう,そしてそれを母親が知っている,というところは,どう理解したらいいのでしょうか?) それにしても律の生きる道は,「こちら方面」になるのでしょうかね? 本人が嫌がっていても(笑)
「山姥」
 飯島家に現れた,もうひとりの“律”の正体は?
 本シリーズには,いろいろな「異形」が登場しますが,本編のものは,ちょっと「大物」なのにびっくり。それゆえにでしょうか,その「大物」との結びつき方が,ちとミスマッチな観が否めません。

04/12/19

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