みなもと太郎『風雲児たち』29巻 潮出版社

 さていよいよ年代は1849年,アメリカ艦隊の来航まで,あと4年,徳川幕府滅亡まで20年を切りました。この巻も,さまざまなエピソードが描かれますが,メインはやはり前巻からの高野長英をめぐるストーリーでしょう。宇和島藩を追われた長英は,かつてのシーボルト鳴滝塾の同僚二宮敬作宅で一時身を潜めますが,さらに潜行を続け,ふたたび江戸に帰還。剃髪し,劇薬でみずからの顔を焼き,町医者沢三伯を名のります。
 蛮社の獄以来,逮捕,留置,そして逃亡を続けていた長英にとって,久しぶりに家族団らんの穏やかな日々が続きます。傲慢で人を人と思わないような長英の性格は,すっかり丸くなり,町医者として一生を終える決心をした矢先,幕府の手は長英に及びます。そして捕り方に襲われた長英は凄惨な死を迎えます。享年46歳。
 時代はすでに長英の先見の明に満ちた見識を受け入れる方向へと動き始めていました。しかし町方にとっての彼は,脱獄のために放火をした極悪人なのです。歴史のアイロニィといってしまえばそれまでかもしれませんが,あまりに悲しい人生の終焉のように思えます。

 そして長英の死と入れ替わるように,物語には,ひとりの人物が登場します。アメリカ海軍の軍人マシュー・カルブレィス・ペリーです。1853年,彼の率いる艦隊は,浦賀沖に出現,幕府に開国を迫ります。そして土佐からは,18歳の若者が江戸を目指します。彼の名は坂本竜馬。彼の江戸行きの目的は剣術修行ですが,竜馬の前には「幕末」という時代が待っています。長英の死とペリーの登場,そして竜馬の江戸への旅立ち,それは,「プレ幕末」から「幕末」へと時代が動き始めたことの象徴なのかもしれません。いよいよ本作品は,もともと作者が描きたかった時代へと進んでいきます。関ヶ原の戦いから始まったこの物語は,29巻をという長大なプロローグを終え,メイン・ストーリーへと展開していきます。

 と,いうことなのですが,じつは掲載誌である『コミック・トム』が今年で休刊なのです(T_T)。つまり『風雲児たち』はこの29巻で終了(号泣滂沱)。といっても,版元の潮出版社は,来春あらたに歴史コミックを主体とした新雑誌の刊行を計画しているようです。でもって,この『風雲児たち』も名前を変え,こんどは坂本竜馬をメインとしながら,再スタートするという話です。よかった,よかった。ともかくも,ここまできたのですから,最後まで(って,いつまでだ? 竜馬の死まで? 大政奉還まで? 西南戦争まで?),描ききってもらいたいものです。

97/12/28

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