あろひろし『ハンター・キャッツ』全5巻 徳間書店
 警察が自治体による分割半民営化され,賞金稼ぎ(バウンティングハンター)が活躍する,近未来もしくはパラレルワールドの日本が舞台。賞金稼ぎをとりまとめるのが「犯罪人捕獲互助組合(クライム・ハンターズ・ギルド)」。賞金の90%をピンハネするというなかなか阿漕な組織。

 はっきりいって荒唐無稽です。でもそれが,あろ作品の魅力です。

 主人公は,賞金稼ぎの女の子3人組「ハンターキャッツ」。天才的なスリ師である祖父(生粋の江戸っ子のくせになぜかクリスチャン)にスリの英才教育を施された「神速の輝(ひかる)」,格闘技に通じた筋肉少女「鉄拳の晃」,あらゆるコンピュータを下僕とし,両腕にコンピュータを組み込んだ「電脳女王(サイバークイーン)の明(メイ)」

 設定が荒唐無稽で,主人公たちがこんなだから,当然,登場するキャラたちも一筋縄ではいかないやつらばかり。とくに2巻で名前だけが出て,3巻から本格的に登場する「四龍(スーロン)」は,武器・麻薬・臓器売買など非合法商人の「白龍(パイロン)」,暗殺やテロを請け負う「紅龍(ホアンロン)」,紙幣偽造・詐欺など一般犯罪を行う「黒龍(ヘイロン)」,次世代の犯罪者を養成する「青龍(ティンロン)」からなる,複合犯罪結社。じつは輝は以前,そのスリの腕のため,拉致されかけ,そして晃と明は,四龍から逃れてきた密入国者なのです(晃と四龍との関係は,第5巻で詳しく触れられています。明についてはいまのところ不詳)。

 四龍が送り出すさまざまな犯罪者たち。芸術的窃盗犯・チェシャキャット眠傀(ミンク),オリエンタル風のコンピューターハッカー電脳の龍(サイバードラゴン)電脳道士,そして晃の師匠を殺し,彼女の肌に深い傷を残した「闇葬儀社」
 人間業とは思えない(マンガですから(笑))犯罪技(?)を次々と繰り出してきます。ハンターキャッツは,それぞれの力と個性を武器に,彼らの犯罪に立ち向かっていくのです。とくに5巻の晃と,闇葬儀社の部下・「泣き女」たちとの高速道路上でのバトルは,手に汗握る名シーンです。

 ところで,あろひろしには8年前,『月刊少年ジャンプ』に連載された『シェリフ』という作品があります。好評だった『優&魅衣』が8巻まで続いたのに,その次に出たこの作品は,2巻で打ち切られてしまいました。
 じつは「分割半民営化された警察」とか,「賞金稼ぎ」とか,「四龍」という設定は,いずれもこの『シェリフ』で出てきた設定で,輝が四龍に拉致されかけるというエピソードは,こちらのほうで出てきたものなのです。そして晃と明が四龍から逃げ出すことになった事件もまた,『シェリフ』のクライマックスで起きた事件だったりします(『シェリフ』と『ハンターキャッツ』との関係は,第3巻で輝の口から語られています)。『シェリフ』がさえない(ように見えて実は切れ者の)中年のおっさんだったためか,あっさり切られてしまったので,今度は女の子を主人公にして,同じ設定で,前作の不満を解消しているのではないでしょうか?もちろん『シェリフ』を読んでなくても,『ハンターキャッツ』だけでも十分楽しめます(だけど私のお気に入りの作品って,こんなんばっかしやなあ(→たがみよしひさ『NERVOUS BREAKDOWN』の項参照))

 第5巻で,一応「第一部完」ということになっていますが,ぜひぜひ第2部の再開が待たれる作品です(もしかしたら雑誌では再開しているかもしれないけれど)。


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