永久保貴一『斑鳩憑霊奇譚 紅蓮』集英社 1999年

 1985年,奈良斑鳩で藤ノ木古墳が発見された夜,砂緒里は不思議な夢を見る。それから10年後,高校生となった彼女の周囲で奇怪な現象が続発。それは彼女に憑いた悪霊のせいなのか? 千数百年の時を距てて,いま壮絶なバトルが始まる!

 本作品も,スコラ社倒産にともなって,連載が終わってしまった作品のひとつ。ほんと,あの出版社の倒産はコミック界にかなりの影響を与えたんですねぇ・・・ 作者自身は,シリーズ化して,2巻3巻と続けたかったようですが,1冊でとりあえず終了,といったところのようです。

 さて物語は,藤ノ木古墳が発見された夜,主人公岬砂緒里が,何者かの霊に憑依されたことから始まります。危機に陥ると彼女は記憶を失い,周囲では奇怪な出来事が起こります。そして高校の不良グループの謀みにより,暴力団の事務所に連れ込まれそうになったとき,彼女は記憶を失い,我に返ると,周りには死体の山,彼女の手には血まみれのナイフが・・・と,なかなかハードなオープニングです。とくに彼女の親友陽子が,銃で頭を撃ち抜かれるシーンはショッキングです(『カルラ舞う!』扇翔子に顔立ちが似ている分,よけいに・・・)。
 その惨劇は,彼女に憑いた霊の仕業なのか・・・ということで,それを払うために,例によって,この作者お得意の妖しげな(笑)おにーさん帯刀兵衛が登場します。ところが一方,砂緒里と陽子を陥れた不良少女渡部綾が,何者かにさらわれ,砂緒里のことを聞きだそうとする,といった別の流れが描かれ,物語はしだいに錯綜していきます。そして,砂緒里に取り憑いた霊の正体と,惨劇の真相は,はるか過去に起きた悲劇に起因していたことが明らかにされ,物語はクライマックスを迎えます。
 この,ラストで明かされる真相は,けっこう楽しめました。藤ノ木古墳は,その豪華な副葬品と,被葬者の正体をめぐる謎など,いろいろと話題性に富んでおり,わたしも興味があるのですが,それを元ネタにして,秀逸な伝奇作品に仕上げているのではないかと思います。「悪霊」の正体もひねってあってよかったですね。

 ただ不満がないわけでもなく,その不満は,というと,要するに設定やキャラクタにどうも新鮮味が感じられないことです。過去の霊が憑依して,少女が超人的なパワーを発揮するというシチュエーションは,厳密に言えば違うとはいえ,『霞の竜笛』を連想させますし,帯刀兵衛の姿には,どうしても『カルラ舞う!』の「妖気なおにーさん」剣持司の姿がだぶってしまいます(酒好きなところとか(笑))。
 ですからネタ的には楽しめたのですが,ストーリィとしてはいまひとつ・・・といった印象を残してしまいました。

99/11/20

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