細野不二彦『ギャラリーフェイク』19巻 小学館 2000年

 6編のエピソードを収録しています。

「当世質屋物語」
 行きつけの質屋から,ある質草を回収するように依頼されたフジタは・・・
 たしかに最近,質屋さんというのはあまり見かけなくなりましたね。最近の若い人(笑)は,「一六銀行」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「一」と「六」で「七」=「質」,つまり質屋のことです(苦笑)。わたしの学生時代には,生活に切羽詰まった友人が,しばしばお世話になっていました(幸い,わたしは1回だけしか行ったことがないのですが^^;;)。それでも以前テレビで,質流れ品のバーゲンの模様を放映していましたが,けっこう高価なものが多かったように記憶しています。
「甦るアール・デコ」
 バブル時代に,フジタがコーディネータをつとめた,アール・デコ調の別荘。その修復を頼まれ・・・
 これまでに何度か書いていますが,わたしは博物館や美術館で古い陶磁器を見るのが好きです。で,たびたび思うのですが,今,わたしたちが見ている古陶磁の独特の美しさには,長い間使われてきたがゆえに付着した茶渋や手ずれが大きな影響を与えているのではないでしょうか? できたばかりのときの美しさと,長い年月を経た上で生まれた美しさというのがあるのではないかと思います。
「箪笥の中に」
 サラが気に入って買った古い車箪笥。それに似合う古伊万里の皿をプレゼントされた彼女は・・・
 前作で,フジタが修復した別荘は,じつはサラが買ったものでした。そういえば,彼女は某アラブ王家の血を引く大富豪だったんですよね。すっかり忘れてた(笑)。「人は見かけによらぬもの」とはよく言いますが,ときおり新聞記事などで,見た目には品のいいお婆さんが,じつは泥棒だったり,詐欺師だったりすることがありますね。
「パリスの審判」
 女性のためのテーマ・パーク“パリス・コート”に飾られた「パリスの審判」は,フジタから購入されたもので・・・
 この作品のモデルとなったテーマ・パークは,テレビで見たことがあります。今でもあるのでしょうか? 「女神」というと,「豊饒」や「美」と結びつけられやすいですが,神話の中では「戦い」や「死」との関連も強いですよね。女神の属性として,「豊饒」や「美」が強調されるようになったのは,もしかすると最近のことなのかもしれません。
「ショパンの心臓(ハート)」
 ショパン・コンクールに現れたフジタは,ある投機家に「ショパンの心臓」を譲ってくれと頼み・・・
 ひええ・・・ショパンの心臓って,残っているんですねぇ・・・う〜む,なんだか,ちょっとグロテスク^^;; で,この心臓移植によって,移植された人間の体質や嗜好が伝わるという話は,先日読んだ貫井徳郎『転生』でも使われていたネタですね。わたしはいまひとつ信じられないのですが,夢野久作の代表作『ドグラ・マグラ』の中に出てくるセリフ,「脳髄は考えるところにあらず」を連想させます。
「楊貴妃の香」
 香料師ジャン・ポール・香本は,サラは香のモニターとして目を付け・・・
 前巻に登場した“変態香料師”(笑)香本の再登場です。たしかに,「体臭」がいい香りならば,究極の「香料」と言えるかもしれませんね。まぁ「フェロモン」と言ってしまえば身も蓋もありませんが・・・。それにしても,「敏感さ」というのは諸刃の刃ってことでしょうか? でも,フジタの態度はちょっと落ち着きすぎですね。

00/06/21

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