細野不二彦『ギャラリーフェイク』18巻 小学館 2000年

「館長三昧」
 過労で倒れた三田村館長に代わって,藤田が代理を務めることになり・・・
 じつを言うと,日本の美術館・博物館には,こういったタイプの館長は少ないらしいんですよね。とくに公立博物館の館長さんは,多くが事務系の人で,学芸員がなることはほとんどないそうです。外国の学芸員の眼からすると,かなり異様に映るようです。それにしてもラストのオチ,三田村館長もなかなか「お茶目」ですね(笑)
「奈翁(ナポレオン)のオー・デ・コロン」
 復元したナポレオンのオー・デ・コロンを入れる容器を手配するよう,フェイ・ツェイから依頼された藤田は・・・
 香料が発達する社会って,要するに「不潔」だったんでしょ(笑)。平安時代とか,ほとんどお風呂に入らなかったみたいだし・・・。ですから,ジャン=ポール=香本の発想は,ある意味,正しいのかもしれません。
「アスパラガスの皿」
 サラの通うエアロビ教室のインストラクタが自殺した。結婚を目の前にしていながら・・・
 ををっと,これはミステリの佳作です。ランプの設置方法をめぐる蘊蓄は,いかにも今風のミステリですし,犯人を追いつめるトラップも小気味よいですね。本巻で一番楽しめました。
「宝探し同好会 トレージャーハンター・クラブ」
 5000両の埋蔵金を捜すサラリーマンたちの発掘現場を訪れた藤田は・・・
 先日,「徳川家の埋蔵金」を捜しているおじさんが,その一部と称する,妙にきれいな(笑)小判を公開していましたね。「夢」は,それがかなったときから,ときにどうしようもないほどの「現実」になってしまうのでしょう。「夢」は「夢」のままだから,美しく,また楽しいのかもしれません。
「似た者どうし」
 ロンドン警視庁のロジャー=ワーナーは,窃盗されたドラクロワの名画を取り戻そうとし・・・
 日本国内では,知念護人地蔵といったライヴァルが登場しますが,そのインターナショナル・ヴァージョンといったところでしょうか? こういった設定を多用するのを見ると,ネタ的ないきづまりを感じてしまいます。藤田の役回りもいまひとつわかりませんね。
「素顔のマリー」
 藤田は,エステティック・サロンの美容師から,1枚の絵の修復を頼まれ・・・
 外見的な美を蔑んで,心の美しさを強調する主調というのは,耳あたりはいいですが,身体と心とを別物とする二元論に立っているという点では,外見的な美を売り物にするエステティック・サロンと同じ論理に立っているのかもしれませんね。ですから本編の石津真理絵の考えというのは,じつに新鮮に感じられました。
「サバイバル・イン・サハラ」
 サハラ砂漠に残る岩絵を求めて,藤田とラモスはガイドを雇ったが・・・
 「トンデモ本」でよく出てくるヤツですね(笑)。一度見てみたいもののひとつです。ただこの作品,サスペンスとしてはおもしろいのかもしれませんが,正直あんまり好きなエピソードではないですね。というのも,以前,東南アジアのとある国で,古い寺院の石壁に彫られた仏像が,ごっそりと削り取られているのを見たことがあるからです。そのときの,ひたすら痛ましい感じを忘れることはできません。たとえば国宝クラスの襖絵が,他国のレストランにインテリアとして飾られていたら,わたしたちは心落ちついて見られるでしょうか?

00/02/24

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