高橋葉介『学校怪談』7巻 秋田書店 1997年

 学校を舞台にしたショート・ホラー集も,もう7巻目です。この巻で126話。2年半近く連載されているですね。意外と人気あるんだ(笑)。

 この巻では新キャラクタが登場します。峠美勒と名のる美少女あるいは美少年。第6巻で登場した九段先生が,魔界や異界に陥りそうになった山岸くんや立石さんを救う役回りであるのに対し,彼女/彼は,ぎゃくに彼らを魔界や異界に導く,もしく突き落とす役回りのようです。
 たとえば「深い穴」「父の影」では,山岸くんの心の奥底にある父親への反感(それはまあ,男の子,とくに思春期の男の子にとっては,誰にもあるものですが)を利用して,彼を異常な世界へと引きずり込もうとします。また「滅愛記」では,両親の離婚に心が揺れる立石さんにつけこみます。そういった危機は,あるときは彼ら自身の力によって回避されますし,またあるときは九段先生によって救われます。だから九段先生と峠美勒とは,少年少女を介して対峙する関係にあるわけです。

 ところが,じつはこの九段先生と峠美勒。ふたり(?)は単純に敵味方というわけでないというのが,おもしろいところです。「九段九鬼子,14歳」では九段先生の少女時代が描かれます。いまでこそ,がさつで図々しく能天気,それでいて愛情に満ちた先生ですが,中学時代はいじめられっ子でナイーヴな,そして自殺を試みる少女でした。
 そして「罠」で明らかになる九段先生と峠美勒との不思議な関係。このエピソードのラスト,峠美勒は九段先生に言います「わたしの気持ちも知らないで。一人で勝手に大人になりやがって」と。大人になるということ。それはナイーヴさや繊細さを失うことなのかも知れません(少年少女の眼からするとそれは「鈍感になる」「汚れる」という風に映るでしょう)。しかしそれは一方で,峠美勒に象徴されるような残酷さ,無神経さを捨て去り,封印するという過程なのかも知れません。
 6巻以降,不条理ホラー的なエピソードのほかに,山岸くんや立石さんの家庭のトラブルにまつわる話が,たびたび描かれているように思えます。それは彼らがちょうど,九段先生と峠美勒との間,微妙で不安定なスタンスにたっているせいなのでしょう。

 この巻でのわたしのお気に入りは,上に書いた九段先生と峠美勒とのエピソードですが,そのほかに「血の伝言」「空の怪」があります。「血の伝言」は,狂った女にさらわれた佐々木さん。危機一髪で山岸くんたちの救われるのですが・・・。「身振り手振り」というところが,なかなかいいです。「空の怪」は,山岸くんはときどき空に化け物の姿を見るようになって・・・。ミステリ風のオチが楽しめました。また山岸くんと立石さんとの関係もほのぼのしています。

97/10/20

go back to "Comic's Room"