漆原友紀『フィラメント〜漆原友紀作品集〜』講談社 2004年

 『蟲師』でブレイクしたこの作者の,近年の独立短編と,「志摩冬青(そよご)」名義で発表された短・掌編を収録した作品集です。

「岬でバスを降りたひと」
 「此岸」と「彼岸」とが接する場所…けっして抽象的ではなく,きわめて具体的・即物的な「場」というのもあるのかもしれません。そんな「場」に,はからずも身を置いてしまった主人公の姿を,コミカルなものを交えながらも,淡々と,しかししっとりと描き出しています。『アフタヌーン』掲載時からのお気に入りの1編です。
「迷宮猫」
 子どもにとって「慣れない建物」とは,まさに「迷宮」そのものなのでしょう。迷宮猫というファンタジックな存在を介して,その子どもの視線を上手に描いています。
「小景雑帳 第一景〜童〜」
 「サンゴの子」「黒い指」「誰そ彼」の3掌編を収録。水彩画を習ったことがあるのではないかと思われる「サンゴの子」の絵の美しさがいいですね。かすかにリンクする「黒い指」「誰そ彼」は,ちょっとホラーテイスト。
「小景雑帳 第二景〜夜〜」
 「銀河の眸」「バイオ・ルミネッセンス」「うたかた」を収録。一種の「輪廻転生」をモチーフとした「うたかた」が好きです。口から「ぽわん」と出てくる魂?の造形がグッド。
「小景雑帳 第三景〜夏〜」
 「花咲く家路」「海と優しい目」「夏の宇宙」。「海と…」で,主人公と相席となった女性の一言−「目が優しゅうなった」の一言にまいってしまいました。たったひとつのセリフで,物語の「世界」を想像させてしまうこともできるのでしょうね。
「小景雑帳 第四景〜伽〜」
 これだけが「海の底 川の底」「白髪ヶ原」の2編よりなります。ともに伝説あるいは伝承を素材としたような作品です。川底の大石が海に繋がるというイメージは,すごくすんなりと心に馴染むものがあります。
「化石の家〜mineral kingdom〜」「雪の冠〜white kingdom〜」
 それぞれ独立した内容ですが,サブタイトルからも想像されますように,「対」になった作品と言えましょう。つまり「化石」の「堅固さ」と,「雪」の「はかなさ」との「対」です。そして人間とは,その両者の間をさまようものなのかもしれません。「化石の…」のラスト,大学の先生のセリフ−「結晶の世界は人を受け入れてくれんよ。気をつけろ」には,なにやら「どきり」とさせられるものがあります。…と,ここまで書いてきて,「化石」と「雪」は,「結晶」という点で共通するものもあるのかもしれない,とも思いました。
「Mar-man」
 画面にはぜんぜん出てきませんが,インセスト・ラブを思わせる,ほのかなエロティシズムが漂ってくる作品です。外国が舞台のせいもあるのでしょうが,外国の翻訳短編を思わせます。
「虫師<青い音楽>」「虫師<屋根の上の宴>」
 『蟲師』のプロト・タイプとなった作品。設定はよく似ていますが,主人公が若い!(というか,幼い?) この両作品と『蟲師』を見比べると,同一モチーフでも,作者が「描き手」として「一皮むけた」という印象を強くしますね。

04/11/21

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