青池保子『エロイカより愛をこめて』22巻 秋田書店 1997年

 さて21巻から続く「NO.17 トロイの木馬」です。フランス対外情報局の作戦次長・ブリニャックが計画した「トロイの木馬」計画を解明,阻止するために,少佐たちは,地中海からフランス・ニース,ベルギー・アントワープ,そしてドイツへと,ヨーロッパ大陸を縦断,北上していきます(ううむ,ギリシャじゃなかった(笑))。次第に明らかになる計画の全貌。それは北アフリカのイスラム原理主義テロリストを利用し,ドイツとNATOを陥れる計画だった!
 東西冷戦終結後のヨーロッパにとって,一番頭の痛い問題は,活発化する過激派のテロリズムと,EU統合に向けて足並みのそろわない各国の利害の調整(「主導権争い」ともいいます。あるいは単に「足の引っ張り合い」とも(笑))です。今回は,そのふたつを巧みに取り入れたエピソードといえましょう。
 ボロボロンテ「ディープでヘビーな愛(笑)」で始まった物語は,混迷するヨーロッパ情勢を背景に「ハードでヘビー」に展開していきます。
 とくにこの巻終わり頃に出てくるフランス情報員の「Q」は,「3バカトリオ」とは比べものにならない切れ者のようです。なにしろ少佐と同じ「サド目系」キャラですから(笑)。ドイツの森を舞台に展開されるであろう少佐vs「Q」の対決は,なかなか熾烈なものになりそうな雰囲気です。『魔弾の射手』『Z』みたいな感じになるんじゃないだろうか・・・。結局,22巻で完結しなかった今回のエピソード,次巻がなんとも楽しみです。

 『エロイカ』のおもしろさは,上に書いたような骨太でハードな展開にあるのですが,それとともに,伯爵御一行が巻き起こすスラプスティックにもあることも言うまでもありません。「小ネタ」的なギャグの数々が,ストーリー展開の潤滑油(?)になっています。今回はなにやらパソコンネタが多いですねぇ。
 たとえば,ジェイムズ君が間違って少佐の部下に渡した,日本の「幼児向けソフト(笑)」が入っているPC。少佐のセリフ「次はもっとあられもない姿になる」「電池が切れた」。少佐の両脇で震えるD(デー)E(エー)の姿が笑えます。そしてなにより大笑いしたのが,部長の次のセリフです。

部長「君がボンに戻るまでには,まっさらのコンピュータが届いておる」
(原文では「まっさら」のところに強調点がついてます(笑))

 わたしも先日ハードディスクがクラッシュして,修理に出して2週間後,「まっさらのコンピュータ」になって戻ってきました。原因不明ですが,自分しか使っていないPCなので,文句の言いようもないのですが,もし他人のせいでそんなことになっていたら,少佐じゃなくても「FREEZE」してしまうでしょうねぇ。お悔やみ申し上げます(笑)。

 この巻の一番のお気に入りは,ジェイムズ君「けっ」です(笑)。

97/11/07

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