青池保子『エロイカより愛をこめて』1巻 秋田文庫 1997年

 いよいよ『エロイカ』が文庫化されました。友人から借りたりして一通り読んではいるのですが,文庫化を機にもう一度読みたくなりました。

 ドリアン・レッド・グローリア伯爵。ギリシャ彫刻のごとき美貌と肉体をもつ貴族で,美術コレクタ。しかしそれは表の顔。じつは“エロイカ”を名のる,美術窃盗団のボス。そして男色家(伯爵の場合,“ホモ”というより,漢字で“男色家”といった方が似合いますね)。世界をまたにかけて,美術品を華麗に派手派手しく盗みまくります。
 対するは,NATOの・・・・と,思いきや,最初はどうやら違っていたんですねえ。
 第1話で最初に登場するのは,『イヴの息子たち』を思わせる超能力3人組。そのうちひとり(男)がエロイカと恋に落ち・・・,なんて展開です。展開の仕方からすると読み切りだったようなところもあります(雰囲気も『イヴ』に近い感じですし)。
 そして第2話になって,ようやく出てきます,あの男が。(「対するはNATOの・・・」の続きです)クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐。通称“鉄のクラウス”,レオパルド戦車が軍服を着て歩いているような,根っからの軍人。任務遂行を第一に考え,無能な部下はアラスカへ飛ばす鬼少尉です。
 派手好きで男色家の伯爵と,なにからなにまで正反対。出会ったときから,おたがい天敵であることを認めあった仲(?)です。本来はNATOの軍人さんにとって,泥棒逮捕は任務ではないんですが,どうもこのふたり,前世の宿縁か,腐れ縁か,なにかと顔をつきあわせてしまう(パタリロバンコランみたいな関係ですな)。
 冷戦時代のヨーロッパを背景に,伯爵と少佐が巻き起こすスラプスティック風味豊かなアクションコミックです。第2話以降は,このふたりが物語の中心軸になり,冒頭登場した超能力3人組は,第3話で姿を消してしまいます(「設定の変更」ってやつですね)。

 さて,第1巻ということもあってか,まだエーベルバッハ少佐の宿敵,KGBのスキンヘッドの大物スパイ“仔熊のミーシャ”はまだ出てきません(最近の人はご存じないかと思いますが,“仔熊のミーシャ”というのは,西側諸国がボイコットしたモスクワ・オリンピックのマスコットです。本物はかわいいんですよ(笑))。このおっさん,けっこうすきなんですよね。少佐の部下はへまをやらかすと「アラスカ送り」ですが,こちらは「シベリア送り」になります。
 それから少佐の部下,A(アー)B(ベー)の顔も一定してませんし,なにより,あの“哀愁のぺーぺー”(笑)“Z(ツェット)”も出てきてません。それでもG(ゲー)の女装趣味は,かなり早くからの設定だったんですね。それと絵柄もずいぶん少女マンガ少女マンがしてますね(少佐の髪が長い!)。守銭奴会計士ジェイムズ君も,まだわりとまともですし(笑)。むしろこれからが,この作品の本領発揮という感じでしょう。2巻以後が楽しみです。

 解説によれば,雑誌で連載が再開されているとのこと。冷戦が終結し,ソ連が崩壊し,NATOもなにやらゴチャゴチャになってしまった現在,彼らの活躍の場は大きく変わってしまいました。もう西側vs東側という単純な図式では,世界は語れなくなっています。でも,世界情勢がどう変わろうと,やっぱり少佐は少佐なんだろうなぁ(笑)。

97/10/19

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