秋月りす『どーでもいいけど [不景気な暮らしの手帖]』竹書房 2003年

 1992年から2001年にかけて,朝日新聞の土曜日夕刊「ウィークエンド経済」というコーナーに,週1で連載された,この作者にしてはめずらしい時事ネタ4コママンガです。てっきり4〜5年かと思っていたら,10年も続いていたのですね。で,その連載期間は,バブル経済崩壊後の,どこぞの経済評論家に言わせると「失われた10年」というヤツです。
 ただし,上で「この作者にしては珍しい時事ネタ」と書きましたが,この作者の世相に対するシビアな視線と,ユーモアたっぷりの表現は,『OL進化論』ですでに見られることであり,そう言った意味で,この作者のスタンスは,時事ネタだからといって,けっして変わるものではないのでしょう。
 ところで,本作品中に出てくる夫あるいはパパさん,なんだか『OL進化論』の田中さんに見えてしまい,「こっちでは結婚できたんだぁ」などと思ってしまいました(笑)

 以下,1年ごとにコメントします(というより,単なる思い出話か?(笑))。

1992年
 バブル崩壊ネタが,やはり多いですね。でもそれを「(仕事が減って)週休2日」とか「家が狭くなる」とかいった生活感覚で表現するところにこそ,この作者の視点の在り所が感じられます。そういえば貴花田宮沢りえって,婚約(だけ)したんでしたね(笑)
1993年
 「日本一もてない男」(笑)と言われたあの人が婚約した年ですね。世の中は引き続き不況で,リストラなんて言葉が定着(?)しつつある頃。「社内の清掃をOLにさせる」というネタで,上司のシビアなセリフは,現実にありそうで怖いです。また不況を,「冷蔵庫で野菜を腐らせない」でもって表現しているところはお見事!
1994年
 前年末にコメ市場が一部解放され,タイ米が輸入されはじめたせいか,そのネタがけっこう見受けられます。もともとコメの種類が違うのだから,国産米と同じ調理方法で「まずい」なんて言うのに首を傾げたのを覚えています。PCを買いたがるお父さんのネタを見て,この頃からしだいにPCが家庭に入ってきたのだな,などと感慨深くなります(もっとも爆発的普及は,翌年のWindows95の発売からでしょうが)。
1995年
 言うまでもなくこの年は,阪神・淡路大震災オウム真理教事件でしょう。「住宅ローンって地震に強いんですね」というセリフには,思わず納得しちゃいましたし,カナリアを買い込みすぎたペット屋さんのエピソードは,不謹慎ながらも笑っちゃいました。また銀行の合併やら破綻やら,おまけに住専問題と,とかく政府の金融政策の無能さが露わになってきたのもこの頃でした。
1996年
 不景気も「あたりまえ」なら,大企業・銀行・官僚のスキャンダルもまた「あたりまえ」になってきた年。末野興産社長逮捕に同情する奥さん,なんか笑えませんよねぇ。住専への公金投入ネタも多いですね。「日本昔話」風のエピソードは,じつに的確に「実態」を表していますね(同時に,国民を鶏に例えて「いいかげん忘れろよ」と政治家らしきキャラに言わせているところもすごいですね)。
1997年
 神戸の酒鬼薔薇事件がらみで,ホラー映画好きの息子を心配する母親と,『失楽園』を読む母親を心配している息子…作家としての作者の意見がほのかに見えたりします。鋭いな,と思ったのが,流行ばかり追う娘を叱るお父さん,秀吉の次はチンギス・ハーン,「アイドルと一緒にするな」と言ってますが,基本的に同じなんでしょうね(笑)
1998年
 実施は翌年でしたが,地域振興券,まさか本気だとはとても思えなかったので,唖然としました。「スーパーはこんなまぬけなサービスはしない」というツッコミがグッド。この年のネタで,目からウロコが「当たり前の生活なんだが,これを不況というらしい」。「好景気」と称するものの正体を,鮮やかに切り取っています。
1999年
 アムロの元夫を使った「育児をしない男は父とは呼ばない」というたわけたポスターに対するこの作者の返答「保育所も育児休暇も足りない国を先進国とは呼ばない」は,まさにクリティカル・ヒット。携帯電話とパソコンのせいで「労働基準法 関係なし!」もまた慧眼ですね。便利さはときに人を奴隷にする,ってか?
2000年
 もうこの頃になると,デフレ不況が常態化してしまい,ことさらに「不況ネタ」は出てこなくなりますね(実際には深刻化してるんだけど)。インターネットの買い物・株取引・ホームページと,94年のネタで,PCが「新種のおもちゃ」と言われていたのとは隔世の感がありますね。そうか,この年に2000円札って出たんですね。要するにヲヤジギャグだったのか(笑)
2001年
 いわゆる新古書店を「定価の4割の料金を取る図書館」とするのは,やはり「本が売れてなんぼ」の作家さんらしい指摘ですね。それと最後の書き下ろしと思われる「デフレと中年」と題されたワンカット。「若いころの自分に送ってやりたい」というモノローグは,ホント,よく理解できるお達者倶楽部のyoshirでした(笑)

03/12/02

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