福本伸行・かわぐちかいじ『告白〜コンフェッション〜』講談社 2001年

 雪山で遭難した浅井と石倉。怪我をして動けない石倉は,みずからの死を覚悟して告白する−5年前に犯した殺人を・・・その直後ふたりは山小屋に避難。下界とも連絡が取れ,あとは救助を待つだけ。しかし浅井の心には,しだい不安が宿りはじめる。自分の犯罪を知られた石倉は,浅井を無事山から降ろすだろうか,と。吹雪に閉ざされた密室の中で長い長い夜が訪れようとしていた・・・

 本編の原作者福本伸行は,巧緻なプロットと抉るような心理描写でギャンブル地獄を描いた『賭博黙示録 カイジ』の作者であります。一方の作画者かわぐちかいじは,『沈黙の艦隊』で一大ブレイクしましたが,それ以前から麻雀マンガ『プロ』や,私立探偵を主人公とした『ハード&ルーズ』などで,画面から「熱気」が立ちのぼってきそうな画風が知られていた作家さんであります。で,思い出したのですが,本編の浅井石倉,かたやエリート風の二枚目,かたや無頼派のちんちくりんという組み合わせは,『プロ』にも見られたキャラクタ造形ですね。両者の対立図式は,この作画者の得意とするパターンなのでしょう。

 さて物語は,吹雪の山中,遭難した石倉がみずからの犯罪を告白するシーンからはじまります。死は避けられないと考えての「懺悔」です。しかし皮肉にも浅井と石倉は助かってしまいます。告白を聞いた浅井は,石倉が自分に対してどういう態度に出るのか,疑心暗鬼に囚われてしまいます。石倉が電話で救助隊に「いえ,ひとりです」と答えているのを,浅井が耳にして疑惑を膨らませていくところは,じつにいいですね。また凍傷で無感覚になった左足を,ぶつぶつと何事か呟きながら,ナイフを刺す石倉の姿も,鬼気迫るものがあります。密室で殺人者と対峙しなければならない人間の恐怖と懊悩をじわりじわりと描き出しています。
 そして,石倉の浅井に対する殺意が明らかにされるにおよんで,ふたりの間の命をかけた駆け引きと闘いがはじまります。ふたりの,互いに隙をつき,裏をかく丁々発止のやり取りは,やはり『カイジ』の作者らしい緊張感のあるものです。そして,ここでまた巧いのは,凍傷で動きが鈍い石倉に対して体力的には優位に立つ浅井を,高山病のため目が見えなくなるというハンディを与えたことです。それはもちろん,ふたりの闘いを「五分五分」にするというストーリィ上の工夫でもあるわけですが,それとともに,「オレの方が強者なんだ」と確信していた浅井を自信を打ち砕くことで,彼の感じる恐怖をより増幅させる効果があります。そしてそれは,浅井の石倉に対する殺意をも生み出す強力な引き金にもなっていると言えましょう。
 ラストはお約束といえばお約束的なものです。もうちょっと伏線というか,浅井と石倉,そして殺されたさゆりとの関係を,もう少し詳しく描いて欲しかったところであります。ページ数やら連載期間との関係で難しかったのかもしれませんが・・・

 それと気にかかったのが絵柄です。この作画者の作品はけっこう好きなのですが,どうもこの作品について言えば,「らしくない」タッチが目につきました。とくに浅井が驚愕するシーン,なんだかムンク「叫び」を連想させるような,まん丸目と大きく開けた口が,デフォルメされすぎているのではないでしょうか? やや興醒めの感があります。どちらかというとこの作画者,タフな,あるいはハードボイルドなタイプのキャラクタを得意とするせいか,浅井のような優さ男はもしかしてあまり描いたことないのかも?(それとも単に画風が変わっただけなのかな?)

01/04/24

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