川原泉『ブレーメンII』1巻 白泉社 2000年

 大型輸送船“ブレーメンII”の船長を命じられた一等航宙士キラ・ナルセ,通称“イレブン・ナイン”は,はじめてのキャプテン任務に奮い立って,大宇宙へ旅立つ。しかし,その乗組員といえば・・・

 さて『小人たちが騒ぐので』で,あまりに痛々しいスランプ状態を見せたこの作家さんが,ふたたびストーリィものを描きはじめました。その設定は,彼女の初期作品「アンドロイドはミスティー・ブルーの夢を見るか?」を引き継ぐものです(今読み返してみたら,絵柄がぜんぜん違ってますね(笑))。
 主人公は,キラ・ナルセ,彼女をキャプテンとして宇宙船“ブレーメンII”は,宇宙に旅立つのですが,その乗務員はすべて「動物」。人手不足を解消するために,改造されたマウンテン・ゴリラやら,熊やら,ウサギやら,白山羊やら・・・
 発想としてはなかなかユニークだと思いますが,その設定があまり生きている感じはしませんね。つまり元(?)動物であるがゆえの特性が,あまりストーリィに絡んできていないとでも言いましょうか(多少はあるんですけどね。犬の乗組員の「鼻センサー」とか,蛇の乗組員の狭いところの調査とか)。むしろキャラクタの書き分けのできない作者が,大勢のキャラクタを登場させざるを得ない設定を,なんとか乗り切るための苦肉の策と見えないこともありません^^;;
 苦肉の策,といえば,『小人たち・・・』と同じように,この作品も「大ゴマ」と「スクリーン・トーン」が目立つ作品になってしまってますねぇ。この作者の絵柄は,どちらかというと陰影が少ない,シンプルなタッチのものです。これまでの,日常生活を舞台にした作品では,その描線のシンプルさが,ほのぼのしたテイストにマッチしていて,作品に独特の雰囲気を与えていたように思います。
 ところが,この作品のように大ゴマが多いと,そのシンプルな描線が,逆に「白さ」を際だたせてしまいます。さらにそこをスクリーン・トーンで埋めると,そのトーンのインパクトが,描線を「殺して」しまっているように見えます。

 『銀のロマンティック・・・わはは』『美貌の果実』『ゲートボール殺人事件』といった,この作者の秀作群をリアル・タイムで読んできた読者としては,どうしても辛目の感想になってしまいましたが,長い沈黙の末に,ふたたび長編を描きはじめたこの作家さんの,これからに期待しましょう。

00/04/28読了

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