つのだじろう『亡霊学級』秋田文庫 2002年

 トラウマとはいかないまでも,子どもの頃に見たマンガのショッキングなシーンが,心に焼き付いて離れないという体験は,おそらく多くの方がお持ちではないかと思います。そんなマンガを挙げよ,と言われたら,わたしの場合,この作品−『亡霊学級』をまずまっさきに挙げるでしょう。とくに「第一話」から「第三話」の3編がインパクトがありました(このほか,楳図かずお古賀新一日野比出志あたりが候補ですな<ホラーばっかし^^;; 子どもの頃からそんな作品ばっかり読んでいたんですね(笑))。

 さてその『亡霊学級』は,5編の短編を収録したシリーズものです。「第一話 ともだち」は,美人で頭のいい三田夕子に,昔の少女の霊が憑依していたというお話。その少女守部八重子に憑依された夕子の顔だけが,宙に浮くように点描で描かれているシーンは「ぞくり」とするものがあります。また入院している主人公の病室の窓,3階の窓のカーテンの隙間から夕子=八重子が覗いているというラスト・シーンは,今になってみれば,怪談のオチとしてはじつにオーソドクスなのですが,初読のとき,思わず窓を振り返ってしまったことを思い出します。
 「第二話 虫」は,いじめられっ子が隠しながら食べている弁当の正体は…というエピソード。とにかく生理的嫌悪感が先立つ作品。弁当箱の中でうじゃうじゃと身もだえるイモムシが,この作者特有の陰影の深いタッチで描かれているところは,ただでさえ「虫ネタ」が苦手なわたしにとって,鳥肌が立つほどのおぞましさがあります。以来,お弁当を隠して食べる同級生を「色眼鏡」でみるようになってしまいました(..ゞ
 プールで溺れ死んだ女性教師の幽霊が登場する「第三話 水がしたたる」で,一番怖いシーンは,プールを泳ぐ主人公の眼前に,その女性教師の幽霊が現れるシーン。美人の彼女が,ページをめくると,グロテスクに膨らんだ水死体の顔に変化します。幽霊が登場するだけでも不気味なところへ持ってきて,この美から醜への反転の見事さは,子ども心にくっきりと「傷」を残すだけのパワーを有していると言えましょう。この顔がまた怖いんだ……ーー;;
 「第四話 手」は,現代まで「トイレの花子さん」として受け継がれている,定番中の定番である「学校怪談」です。今では滅多に見かけることのなくなった汲み取り式トイレに浮かぶ,ふたりの少年の死体の顔…子ども心に「こういう死に方だけはしたくないなぁ」と思ったことを覚えています(笑) それにしてもなんで学校のトイレというのは,こうも怪談の舞台になりやすいんでしょうね。
 火事現場で偶然,猫を殺してしまった少年を襲う怪異を描いた「第五話 猫」は,本シリーズ中では,いまひとつの感が拭えない作品です。主人公の顔がギャグっぽいからでしょうか?^^;; 

 さて本巻には,この作者の代表作のひとつ『恐怖新聞』のエピソード2編−「生きていたモナリザ」「除霊」−が「番外編」として収録されています。ページ数の関係からセレクトされたのでしょうか,あんまり内容的につながりがあるようには思えませんね。
 でもこの『恐怖新聞』,霊の世界やらUFOネタやら歴史綺譚やら,けっこういろいろな「知識」を仕入れるのに役立ちましたね(もちろん現実生活ではぜんぜん役立たない知識ばっかりですが(笑))。そういった意味では思い出深い作品です。シリーズのクライマクス,だんだん肉体が腐っていく鬼形礼の姿が怖かったです。

 このほか独立短編が2編−「金色犬 ジョニー弘田事件簿」「赤い海」‐収録されています。「金色犬」は,怪奇趣味たっぷりのミステリです。絵のタッチから,この作者の初期作品と思われます。トリックはややおそまつですが,途中「読者への挑戦状」が挿入されていたり,真犯人を推理するきっかけとなった伏線など,なかなか本格ミステリしています。『悪魔の手毬唄』など横溝正史の作品をマンガ化しているのも,こういった「下地」があったからなのでしょう。
 「赤い海」は,航海中の船上で起こる連続殺人事件を描いたミステリ作品で,こちらも「洋上の吸血鬼」といったオカルティックなテイストに横溢しています。まるで吸血鬼に咬まれたかのように首筋に傷を負った死体の謎,船員たちの間での疑心暗鬼,いったい真犯人は?というサスペンスが楽しめる作品です。で,いったん「理」に落ちたストーリィが,ラストで一気に反転,ホラー・タッチに収束させることで醸し出す不気味さが,じつによいです。この作品も記憶に残っていて,久しぶりの再会が嬉しかったです。

02/04/04

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