横溝正史・つのだじろう『悪魔の手毬唄』講談社漫画文庫 2001年

 「悪魔の手毬唄」という奇怪な歌詞の曲が大ヒットした,3人の女性コーラス・グループ“リリス”。彼女たちはいずれも岡山県鬼首村の出身だった。そして彼女たちが鬼首村に帰ったとき,惨劇がはじまる! 歌詞と同じように無惨な方法で殺されていく“リリス”のメンバー。名探偵・金田一耕助が解き明かした事件の真相とは?

 横溝作品のマンガ化は,古くは影丸穣也による『八つ墓村』ささやななえによる『獄門島』などがあり,近年ではJETが精力的に作品を発表しています。横溝作品特有の怪奇趣味,けれん味は,マンガとして視覚化するのに魅力的な素材なのでしょう。
 そんな中で,この作画者つのだじろうによる本作および『犬神家の一族』は,一連のマンガ化作品とは,やや趣を異にする作風を持っています。異色作といっても過言ではないでしょう。
 まずなにより主人公金田一耕助の造形が,原作とはまったく異なります。ぼさぼさ頭に和服という金田一のトレードマークを排し,背広を着て,丸メガネをかけたキャラクタとして再創造しています。
 さらに本作の場合,原作における終戦直後の寒村という舞台を,現代に移すとともに,作品のメイン・モチーフである「悪魔の手毬唄」を,エキセントリックなコスチュームで売れたヒット曲に変更されています。原作の持っていた土俗的な雰囲気を,現代的なオカルト趣味へと大胆に変貌させています。この変更は,『うしろの百太郎』『恐怖新聞』で知られるオカルトマンガ家としての,この作画者の持ち味を前面に押し出した結果と言えましょう。それは,金田一による事件解明シーン,つまりクライマクスにおいて降霊会を挿入するという点においても,顕著に現れています。

 じつを言うと,原作を含め,横溝作品における因習的・土俗的な環境でのおどろおどろしい雰囲気を愛好していたわたしとしては,本作品を最初に読んだとき,強い違和感,はっきりいって拒絶反応を起こしました。「あまりといえばあまりな変更だな」という感じでした。あるいは,たとえどんなに怪奇的なシチュエーションであっても,最終的には「理」に落ちる本格ミステリである横溝作品と,この作画者が描いていた一連のオカルト・ホラー作品(「理外」を描いた作品)との決定的なまで方向性の「ずれ」に対する違和感とも言えるかもしれません。
 ですが,今回改めて読み返してみると,たしかにトリヴィアルな部分で変更を加えているものの,原作の持つ「骨組み」は,しっかりと踏まえていることに気づかされました。いやむしろ,連続殺人事件の発端となっている恩田幾三の詐欺事件を,芸能界への斡旋という現代的な素材へと変更している点は,事件の動機によりリアリティを持たせることに成功していると言えましょう。また横溝作品の怪奇趣味の背後にある本格ミステリとしての論理性も,金田一と磯川警部との会話を通じて,きちんきちんと明解に描き出しているところも,原作のエッセンスを十二分に咀嚼していると言えるのではないでしょうか。

 つまり,つのだじろうという,それこそ日本マンガ界で随一のユニークさを持つ作画者によって,大胆に手を加えられた本作品もまた,まごうことなく横溝作品のマンガ化と評せましょう。
 同一作画者による『犬神家の一族』も文庫化されるようですので,こちらも楽しみです。

01/08/24

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