山岸凉子『青青(あお)の時代』3巻 潮出版社 2000年

 日女子(ヒミコ)は,四の王子・狗智日子(クチヒコ)と手を組むことを決意する。だが,狗智日子は,狗奴の軍勢をヤマタイに導入,二の王子を暗殺。さらに連合国王たちを謀って拘束,ヤマタイの王としての地位を強引に,しかし着実に築いていく。風雲急を告げるヤマタイ,その中で壱与の運命は?

 「時代が変わったのですよ,日女子さま。太陽(ティラ)よりも自分の知恵を信じる,そういった時代にね」

 狗智日子は,日女子に面と向かって,そう言い放ちます。また,これまでの彼女の敬称である「聞こえさま」を排して,「さま」がついているとはいえ,「日女子さま」と呼びます。それは単純な権力闘争だけでは言い表せない,「巫女王」としての日女子の「聖性」の剥奪ともいえましょう。
 時代は大きく動き始めます。第1巻の感想文で,「青の時代」とは「青銅器の時代」,そして「女の時代」であると書きました。そして,壱与は,その時代の終焉,「鉄器=赤の時代」「男の時代」への変化に立ち会うのではないかとも。この巻で大きくクローズ・アップされる狗智日子とは,まさにそんな「赤の時代」の到来を象徴するキャラクタなのでしょう。
 それは,たとえば,彼が日女子の館−女しかいない館−の女官アヨを誘惑して,情報を聞きだし,ついには倉庫の鍵を入手,王の象徴である銅鏡や幡を盗み出すという手口にも現れています。それは「聖」なるものが「俗」によって蹂躙されていく姿でもあります。それは同時に,女性原理が,男性原理によって覆され,支配されていくプロセスとオーヴァ・ラップするとも言えるかもしれません。

 その中で,壱与がこれからどのようなスタンスを占めていくのかは,じつに興味深いところです。実質的に,狗智日子に代表されるような男性原理による政治の中で,傀儡としてのみ生き延びるのか? それとも男性原理が支配し尽くすことのできないベーシックな女性原理の象徴として存続するのか? 作者はいったいどのように描いていくのでしょうか?
 しかしそれはまだ先のこと。何者も恐れぬマキャベリストである狗智日子の剣先は,日女子を傷つけ,さらに壱与へも向けられます。
 ますます目が離せません。

 ところで,日女子が手にしている金印,福岡にいるとき,実物を(もちろんガラス・ケース越しに)見たことがありますが,こんな大きくありませんよ(笑)

00/05/25

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