山岸凉子『青青(あお)の時代』1巻 潮出版社 1999年

 南の島で,気の触れた老婆と暮らす少女・壱与。周囲から白い眼で見られながら暮らしていた彼女たちの運命は,ひとりの男が現れたときから,大きく動き出す。大和(ヤマタイ)へと連れて行かれた壱与は,そこで日女子という巫女王に出会う・・・

 この作者の新しい作品の舞台は古代日本,邪馬台国の時代であります。主人公の少女の名は壱与(いよ)。いわゆる『魏志倭人伝』には次のような文章があります。

「卑弥呼以て死す・・・更に男王を立てしも、國中服せず。更更相誅殺し、当時千余人を殺す。また卑弥呼の宗女壱与年十三なるを立てて王となし、國中遂に定まる。」

 主人公は,邪馬台国の女王卑弥呼(作中では「大和(ヤマタイ)」「日女子(ヒミコ)」と表記されています)を嗣いで,女王となる運命を背負っています。しかし,前掲の文章に「更更相誅殺し、当時千余人を殺す。」とありますように,彼女の前には戦乱が待ち受けています。この物語においてもすでにその戦乱の予兆が描かれます。伊都国の第一王子天日子(アマヒルス)の野心,なにやら企みをめぐらす第四王子狗智日子(クチヒコ),そして「大和」を襲う狗奴国。「大和」の覇権をめぐって「男」たちが動きだそうとしてます。
 ところで,本作品のタイトル「青青(あお)の時代」というのは,おそらく「青銅器の時代」という意味ではないかと思います。朝鮮半島から輸入された青銅器は,日本列島において「武器」から「祭器」へと変化します。剣や矛は祭の道具として巨大化していきます。そしてそれらを用いて人々を支配した人物,祭によって人心を掌握したシャーマン,それが「鬼道に事え,能く衆を惑わす」と伝えられる卑弥呼なのでしょう。
 しかし時代は,青銅器から鉄器へと変わっていきます。祭によって支配するのではなく,軍事力によって支配する時代へと変わっていきます。「マツリ」から「政治(マツリゴト)」の時代へ,「青の時代」から「赤の時代」へと・・・
 それでも,まだ時代はそこまで動いていません。「更に男王を立てしも、國中服せず。」とあるように,「赤の時代」「男王の時代」へと一気に突き進むわけではありません。主人公の壱与は「青の時代」の女王として,国を治めます。かつて平塚らいてうは,「元始,女性は実に太陽であった」と言いました。この言葉には,日本神話に出てくる女神にして太陽神天照大神のイメージが影響を与えているでしょう。この作品でも,「日女子」は「照(ティラ)日女子」とも呼ばれています。また「太陽(ティラ)」という表現も出てきます。
 「日女子=太陽=天照大神」・・・「青青の時代」・・・それは女性の時代だったのかもしれせん。壱与は,その時代の終わりに立ち会うのかもしれません。

 ところで,狗智日子,山下達郎に似てませんか?(笑)

99/02/20

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