高橋留美子『赤い花束 高橋留美子傑作集』小学館 2005年

 年に1回,『ビッグコミックオリジナル』に掲載される短編−「高橋留美子劇場」6編を収録した作品集。『専務の犬』以来,6年ぶりです。「ユーモアとペーソス」という,今ではあまり見かけなくなった評言が,ピッタリな作品集と言えましょう。

「日帰りの夢」
 転校が多かったため,同窓会には縁の無かった彼が,はじめて出席した理由は…
 「同窓会で初恋の人と会ってはいけない」という鉄則がありますが(笑),鉄則ゆえに「ありがち」な素材とも言えます。しかしそこにひねりを加えることで,二転三転,話を転がしていく手腕は見事です。またイントロダクションで,主人公の家庭内の「立場」を鮮やかに描き出しているところもさすが。だからこそエンディングが活きるのでしょう。それと,若い頃に読んでピンと来なかった文章が,年を食ってから胸に染みこむってこと,たしかにありますよね。
「おやじグラフィティ」
 7年ぶりに単身赴任から帰った父親は,息子に馴染めず…
 同じ息子であっても,「小学生」と「高校生」では,ほとんど「別人」と言っていいでしょうね。また息子の方でも,7年ぶりに同居する父親との「距離の取り方」に戸惑っているところもあるのでしょう。そこらへん,双方の「不器用さ」をじつに上手に描き出しています。しかし,父親になったことのないわたしでも,「一晩かかって説得した」主人公の気持ち,よくわかります(笑)
「義理のバカンス」
 夫の母親とともに,ふたりで旅行することになった妻は…
 「気を遣う」というのは,とても難しいことです。まず「必要最低限度」というものが設定しにくい。ある人にとっては「十分」な「気遣い」でも,他の人にとっては「不足」と感じられることもあります。また「遣い方」もけっして一様ではない。「遣い方」の違いから,互いにギクシャクしてしまうことも間々あります。そんな,ただでさえ難しいものの中でも,もっとも難しいと噂される(笑)「嫁・姑の間の気遣い」をコミカルに描いています。「あんた,ロクデナシね」の一言に爆笑。
「ヘルプ」
 倒れた父親を引き取って5年…介護していた妻が,骨折で入院した…
 「いくつになっても親は親,いくつになっても子どもは子ども」というお話。「感謝してほしかったのではない。ただほめてほしかったのだ」というモノローグ,なんか「ストン」と腑に落ちてしまうところがあります。また,そんな彼に「秀彦…大丈夫か?」と声をかける父親もいいですね。関係ないですが,死んだ祖母が入院した際,看護婦さんに「下の世話」を受けるのがイヤで,何度も自力でトイレに行こうとして,その結果,体力を失って……という話を思い出しました。
「赤い花束」
 会社の宴会中,突然死した男は,幽霊となって,残された家族を観察するが…
 設定としては,しばしば見かけるパターンですが,主人公の姿−宴会中に,上半身裸,頭にネクタイを巻いて,腹芸を見せているときに死んだという,そのまんまの姿で描いているところが,この作者らしいところでしょう。それでもやはり,死んでから気づくというのは,あまりに哀しいことですね。
「パーマネント・ラヴ」
 単身赴任のお父さんが,定食屋で知り合った女性は…
 この作品が2005年,「義理のバカンス」が2004年。この作家さん,かなり安定した絵柄を確立されている方ですが,この最近の2編,ほんの少しですがタッチが変わっているように思えます。もっとも『犬夜叉』では,さほど変化が見られませんので,もしかすると「青年誌用」なのかもしれません。それにしても,テレビで追っかけをしている妻の姿を見た夫の気持ちというのは,いやはやなんとも…(でも,もしかすると,去年,日本各所で起こっていた可能性はありますよね(笑))

05/07/10

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