JET『綺譚倶楽部』1〜4巻 朝日ソノラマ
 頃は大正の末,主人公は『綺譚倶楽部』という新聞の記者,金大中小介久我雅夢。小介は,物理学者・金大中博士の一人息子ながら,アヘン中毒といういわくありげな過去を持つ。そのうえ,一見脳天気に見えつつも,なぜか周囲に「人ならざるもの」があつまり,その結果,関わる人に死を招くことに,深く悩む。
 一方,雅夢の方は,黒いストレートヘアに翠色の目を持つクールな美形。洋行帰りというふれこみで,日本の事情に通じていないようだが,じつはその「人ならざるもの」らしい。何者かを追っているらしいが,今のところ明らかでない。
 そんな二人が,猟奇事件・怪奇事件に,あるときは巻き込まれ,あるときは飛び込んでいく。

 この作品には多くの「人ならざるもの」,異形のものが登場する。それらが無関係な第三者を不条理に襲いかかる場合がないわけではないが,むしろ,それらを呼ぶのは人間の側の場合が多い。人間の哀しみ,憎悪,欲望,怨念といった,いわば「負のエネルギー」が,それら異形のものたちを招き寄せ,悲劇を,そして惨劇を生み出している。だから,本当に怖いのは,不気味な姿形をした異形のものたちよりも,それらを呼び込む人間のどろどろとした,ゆがんだ「心」なのだろう。ゆがんだ心こそが,もっともおぞましい「異形のもの」なのかもしれないのだから。

 わたしが一番好きなのは,第3巻に収録されている「忘れ雪」
 弥生の夜,名残雪の中で,小介は中国服を着た少女の「幽霊」をひろう(とりつかれる)。小介が少女に導かれるままに行き着いた先は,井戸の中につり下げられた彼女自身だった。少女は奇跡的にもまだ息があり,小介を呼んだのは,幽霊ではなく生き霊だったのである。彼女は落魄した公爵夫人に「飼われ」,体中のいたるところにやけどの痕や傷跡が残っていた。そのおぞましさに慄然とする小介。しかし,ほんとうの恐怖は,少女の口から語られたもうひとつの「真相」だった・・・・

 JETの作品には,このほかに,狼男のホームズと吸血鬼のワトソンが活躍する『倫敦魔魍街』(1〜8巻)や,死者を生き返らす少女を主人公とした『闇の行人』(1〜2巻)といったアクションホラー,『ぶなの木立』『ギリシャ語通訳』などのホームズ譚や,『獄門島』『八墓村』などの金田一耕介譚のマンガ化,柳生十兵衛が主人公の剣豪アクション『柳生剣鬼抄』などなど,いっぱいありますが,いずれも耽美的で,怪奇味たっぷり,それでいて迫力あるアクションシーンに満ちたおもしろい作品です。

 なお本シリーズは,『眠れぬ夜の奇妙な話コミック』として復活しています(感想文はこちら)。


go back to "Comic's Room"