浦沢直樹『20世紀少年』6巻 小学館 2001年

 “ともだち”が支配する21世紀初頭の日本。友人のニューハーフが,警官による殺人事件を目撃したことから,カンナは警察に追われることになる。そして“ともだち”によるローマ法王暗殺計画を知ってしまった蝶野刑事も彼女と行動を共にするようになる。一方,海上に浮かぶ“海ほたる刑務所”では,ある脱走計画が進められていた。“20世紀少年”たちの最後の希望・カンナを救うために・・・

 帯に「祝!! 快挙!! 浦沢直樹W受賞」の文字。本作品がふたつの漫画賞を受賞したのかな,と思いきや,よく見ると『MONSTER』「小学館漫画賞」を,本作品で「講談社漫画賞」を受賞したとのこと。この手の漫画賞は,どうしても自社が刊行している作品に与えることが多く,多少(?)「お手盛り」的な性格がありますが,そんな中,講談社が,同じような漫画賞を持っている小学館作品に賞を与えたことは,これはなかなかの快挙ではないかと思います。もっとも,これを機に「旬」の作家さんに,講談社でも描いてもらいたいという下心があるのかな,と思ってしまうのはゲスの勘ぐりでしょうか?(笑) なおこのような漫画賞に対する私見はこちらをご参照ください。

 さて前巻において,「現在」から「近未来」へと,その舞台を大きく変えた本作品,いよいよ新しい舞台でのストーリィが本格始動,といったところです。カンナのニューハーフの友人ブリトニーが,警官による殺人を目撃,それが“ともだち”によるローマ法王暗殺計画に繋がっていることから,カンナ,そして蝶野刑事は,陰謀の渦中へと巻き込まれていきます。そこに思わぬ「過去の人物」が絡んできて,カンナたちが窮地に追い込まれるあたりの巧みなストーリィ・テリングは,相変わらずですね。そしてなんといっても圧巻は,蝶野刑事と踊るブリトニーが撃ち殺されるシーンでしょう。ストップ・モーションと,ワン・シーンをいくつかのアングルから描き出すことで,画面の緊迫感を高める手法は,すぐれて映画的であると言えます。そう,この映画的描画法こそが浦沢マンガの魅力のひとつだと思います。以前,友人が「浦沢直樹は手塚マンガの正統的後継者だ」と言ったことがあります。そのときは酔っぱらっていたので深く追求しませんでしたが,手塚治虫が,マンガに映画的手法を取り入れることで「戦後マンガ」を産み出したとも言われていますから,その友人の言は,上記の浦沢マンガの特色を指していたのかもしれません。

 本巻では,カンナたちとは別にもうひとつのストーリィもまたはじまります。舞台は,海上に浮かぶ刑務所“海ほたる刑務所”です。“ともだち”に否定されたマンガを描いたため,刑務所に入れられた男は,地下の「特別懲罰房」「バケモノ」と呼ばれるひとりの男に出会います。14年前から留置されているその男・・・・ショーグンであります。本作品の「世紀末編」では,主人公であるはずのケンヂを完全に「食って」しまっていたキャラが,ついに復活です。やはり14年間に渡って刑務所からの脱走を試みる人物としては,このキャラ以外にはちょっと考えられませんね(それにしても,生え際がかなり後退してますね^^;;)
 “ともだち”に命を狙われるカンナ,脱走不可能と言われる刑務所から脱出をはかるショーグン,果たして彼はカンナを救えるのか? そしてケンヂたちはいずこに? 『20世紀少年 第2部』はゆっくりとストーリィを加速させていきます。

01/08/06

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