The Pharmaceuticals Monthly 1993
月刊薬事10月号VOL.35

特集:外国人患者への対応をめぐって

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病院薬剤師と外国人患者への対応...........臨薬会



はじめに


平成2年11月、運輸省の外郭団体の調査で、観光や仕事で日本を訪れた外国人の数が年間300万人を突破したとの報告があった。外郭団体によると、昭和39年い35万人だったのが、昭和2年に100万人、昭和59年には200万人を越えたそうである。また平成2年の調査では、訪日外国人の国別にみると、韓国49万人余り(23%)、次いで台湾43万人(20%)、米国37万人(17%)で、この御三家で全体の6割を占めていたそうである。
 鹿児島においても、数年前より「からいも交流」(鹿児島県鹿屋市に拠点を置く「南方圏交流センター」が都市部に住む外国人留学生を招き、県内の市町村に3〜4人ずつホームステイをさせ地元との交流を図るもので、現在圏か24市町ででおこなわれている)等も手伝って外国人の訪鹿の頻度が高まってきている。また、鹿児島県内在住の外国人も多数見られ、さらに近年増えつつあるベトナム難民や中国の残留孤児も忘れてはならない。
 昭和62年、からいも交流」等で来鹿した外国人101名に、日本の病院についてアンケート調査を行い、病院薬剤師として興味深い知見を得たので、ここに報告する。また、この結果を踏まえて、今後進むであろう国際化の中で病院薬局において外国人向けの服薬指導の必要性が認められたので、当臨薬会で作成した「外国人の服薬指導マニュアル」についても併せて報告する。


アンケートの内容・結果


「からいも交流」および「ハンスー喜界島交流会」で来鹿途中の外国人101名に往路、船上でアンケート調査に協力してもらった。調査内容は、性別、年齢、国籍、来日回数、滞在期間、日本の病院での受診の有無、投薬痔の服薬指導の有無、病院薬局に対する要望、などである。
 性別では、男性64人、女性37人。年齢は20〜25歳が63人(62%)、25〜30歳が27人(27%)、30〜35歳が6人(6%)の順で、比較的若い人が多かった。これは「からいも交流」等のイベントで来鹿したという特殊な事情によるものと思われる。
 図1(省略)に「在日中に日本の病院で受診したことがあるか」「そのとき日本語のわかる同行者と行ったか」の問いに対する回答を示した。受診経験者は39人(40%弱)で、そのうち23人(60%弱)は一人で受診していたことがわかった。国籍では、マレーシア8人、香港5人、米国3人、韓国、インドネシア、フィリピン各2名等となっている。この39人の滞在期間は1年未満12人、1年以上2年未満16人、2年以上9人で、残りは記載がなかった、
 次に、病院薬局での服薬指導の有無について図2(省略)に示す。服用回数や服用時間、服用量は50〜60%程度説明されていたが、服用薬品名、作用、副作用や保管等はかなり説明不足のようであった。
 図3(省略)に、病院薬局に対する要望について示した(複数回答)。薬の名前、作用の説明の要望が一番多く共に60%あり、次いで服用方法、服用量、英語での説明等が501%近くあった。以下、副作用や対処の方法の順序となっていた。


外国人に対する服薬指導マニュアル


前述の外郭団体調査同様、アンケートの結果より、英語圏、中国語圏、韓国語圏、タガロク語圏が多いと思われるため、近隣の病院勤務薬剤師による当学習会「臨薬会」で、「外国人に対する服薬指導マニュアル」を独自に作成した。今回は、その一部を紹介する。図4(省略)


各疾患の説明と生活(服薬)指導のパンフレット


 問診表、病気の説明などの関して英語、中国語、韓国語、ロシア語、タガログ語の小冊子を作成した。 
 問診表(英語版)(図5)(省略)は、本来診療時に診療科や病棟で患者の状態、症状発生時期、薬物・食物アレルギーの有無等を記録するものであるが、服薬指導時にも有効に利用できると思う。
 また、薬剤師が患者に説明するときの参考資料として、下記疾患の説明と服薬指導についてのパンフレットを作成した。
   (1)高血圧 
   (2)狭心症・心筋梗塞
   (3)糖尿病
   (4)高脂血症
   (5)気管支喘息
   (6)消化性潰瘍
   (7)肝炎
   (8)腎臓病
   (9)脳血管障害
 今回はこれらの中より、高血圧(韓国語)(図6)(省略)、消化性潰瘍(中国語)(図7)(省略)について示す。


おわりに


近年、医療の中での薬剤師の業務への価値が高まりつつあり、特に服薬指導においては薬剤師の役割の重要性は自他共に認めるところである。このような状況の下で、訪日外国人も増加しつつあり、年間500万人を越えるのも近いものと思われる。われわれ病院薬剤師は、いついかなる時においても、自国の人間だけでなく、外国人に対してもスムーズに対応出来るように準備しておく必要がある。
 今回、「からいも交流」という、ごく限られた地域の、ごく限られた外国人に対してではあったが、病院にかかった人は全体の40%を占め、その中で60%弱の人が一人で通院していたのも驚きであった。外国人の日本の病院に対する要望は、日本人それと何ら変わりはないが、そこには言葉という大きな壁がある。その壁をわれわれの方から取り払うために、英語、中国語、韓国語、タガログ語等を学習して服薬指導にあたることは、容易なことではないと思う。そこで、当学習会で作成したマニュアルを利用して、その中の必要な部分をコピーし、薬袋に貼付することで言葉への障害を少しでも解消できると考えている。まだ完成されたものではないが、今後さらに内容を検討・充実させていきたいと思っている。

週刊薬事新報

平成7年5月11日 第1849号

《目 次》
やまびこ〈外国人患者〉−−−−−−−−−−−−−兜坂 浩教
論壇〈波風を立てることは、職場を活性化する!〉−−−水上義明
高度先進医療の実際
 直線加速器による定位放射線治療(Linac radiosurgery)
      −−−−−−−林靖之、内田孝俊、小幡史郎、ほか
薬剤管理指導料取得への取り組み−−−−−−−−堀田家代子
医薬の窓(233)−近着誌から−−−−−−−−−−−菅山修二
AJHP目次−−−−−−−−−−−−−アメリカ病院薬剤師会
人と人〈風を感じて〉−−−−−−−−−−−−−−−高橋昭年
点描〈法人化元年〉−−−−−−−−−−−−−−−−−和−
《ニュース》
日本薬剤師研修センター、新理事長に内山氏−−−−−【2】
日病薬会員数3万人を越える−−−−−−−−−−−−【4】
《本誌綱領》
本誌は日本病院薬剤師会に協力して会員間の連携を強め、
会の発展と会員職能の向上に努める。
本誌は常に紙面提供の機会を均等に保ち、臨床薬学、剤界情報の
媒体として、わが国薬学薬業の発展に努める。

やまびこ
外国人患者
 昭和60年の頃、当病院の近くのホテルのスナックにダンサーとして勤務するフィリピンの女性が、風邪や身体の不調を

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