その22


 カセダウチ  (kasadauchi)

知覧町 郡  ちらんちょう こおり

1月14日の日没から深夜12時までの間に、神様などに扮装した人々が、
新築した家を祝福するために訪問する行事。かつては県内あちこちにあったが、
現在は知覧町・ほかに、わずかに残っているのみ。
地域によって、内容がすこしづつ違っていたり、時代によって変化もしてきている。

 

一般的に、その家を建てた大工さん中心に知人の大工たちが3人から5人一組で、異様な派手な格好の神様に化けて、夕刻から深夜までに訪問する。最近は友人、毎年参加するセミプロみたいな人達が神様になる。顔がわからないように扮して、窓を叩く。家人は招き入れて、薪や割り竹を敷いた上に、カマスやゴザを乗せ、その上に座らせる。
神様たちは、大黒様の置き物・3の数字の入った財産目録、ニセのお金などを差し出す。主人はそれを床の間に飾り、お礼に、お酒、ご馳走膳を出す。酒は酢入り、ご馳走は松かさの煮物とかニワトリの頭や足、冬眠中のカエル、オタマジャクシの吸い物とかほとんど食べられないものばかり。その中に1品食べられるものも入れてある。
お箸は太さも長さも違った青竹製。それでも、新築を祝い、家を誉めて祝儀をもらって帰っていく。


不況下なのか、町ではこの年、神様を迎える家が3軒、神様のグループも3組という寂しいカセダウチだった。取材許可の出た1軒に早めに外で待っていると、1升瓶を抱えた人達が家の中に入っていく。これは、お祝いを持った大工さんとか、親戚・近所の人の様だ。 出てこないところをみると、飲ん方が始まっている様だ。暗くなった6:26に車が到着。女性運転の仮装した神様たちだ。2台の乗用車から、神様たちだけ、座敷の窓を叩く。中から家の人があけて招き入れられる。座った所は座敷の畳に青いビニールシートが敷いてある。割れ竹やマキは下に入れてない。左下へ
以前は真っ赤になったり脛がへこんで痛々しいということだった。
「どこから来られた」とか色々質問されたりしながら、袋から大黒さまの置き物を取り出す。
神々は財産目録を読む以外は何もしゃべらないという決まりのある所もあり、はじめの一組目も、発声はするが言葉にはなっていない。
家の人達は面白がり、ナントかしゃべらせようとする。引っかかって神々がしゃべり出すと盛りあがり、宴会になる。神々も家の人も早くから飲んでいるので、その掛け合いは面白い。これは、鹿児島弁を理解していないとわからない。
焼酎が注がれるが、酢の匂いがする。 
「膳を持ってきて」の家長の合図で運ばれた膳には、マツカサの煮物、ニワトリのとさかの吸い物・ニワトリの足の筍、タイヤゴムの昆布とか蝋細工の品々、とても食べられないものばかり。その中に刺身だけは本物があった。面白いやり取りのあと、化けの皮をはがされた神々は、お面や被り物など取られ、本物の焼酎や、食べられるご馳走が出て、懇談会。この最初の組はペンギン・犬(に化けた)を引きつれて総勢6人。家主の職場の人達が扮した神だった。
一番最初にやってきた組にはツケゼン「付け銭」が他より余計に与えられる。金額はその組の持ってくる置き物「主にデコッドン=大黒様」の出来映えの判断で、増減するそうであったが・・懇親に入るまでのやりとりなど約30分・6:51次の組が来ないので、同僚でもあるし、それから30分以上滞在し、飲ん方。


次の組は午後8時22分到着。3人グループである。ひょっとこの面のリーダーと侍のような格好と深編笠のような隠しを被った嫁女。別のグループもほぼ同時到着。この3人組は大工さんがいるのか、ちゃんとした木彫りの大黒天。目録も立派な板に書かれた「数字3」の土地3万三千三百三十三坪とか乗用車3333台など。一番上だけ本物らしい、中は一目で偽物とわかる札束
他の組と門の外でかち合っていたので、早く切り上げ様と・・懇親に入るのが8:38
結局、かち合った組は別の場所に行ったので、ゆっくりと本物の酒や料理でもてなされ、懇親から出てきたのが9:08。3人の中の奥さんを携帯電話で呼び、車で次の場所へ





3組目、マイクロバスか大型ワゴン車の運転手と助手付きで、7人の七福神登場。9:14
あっちこっちで飲んでいるので、門の外で全員放水。部屋の中に登場は9:18.

町のカセダウチの神様役を長くやっているようで、慣れたもの。笑わすことも非常に上手い。初めから漫談のようにしゃべっている。家の人からのチャチもいらず、座を盛り上げている
「今日は神様。明日からは○○屋になるけど・・」絶えず笑いがおこっている。
持ってきた狸の置き物をわざと間違えたフリをして、七福神の宝船に取り替えたり、笑いをたくさんとっている。セオリー通りにゲテモノ料理など用意はされているが、初めから懇親会のようだ

一応ひととおり終わって、抜け出せる雰囲気になったのが9:58.
その後は分からないが、いつまでも続いていたのではないかと、そんな気もする




この「カセダウチ」の起源は「稼いだ家」とも言われるが、由来ははっきりしていない。知覧町の直ぐ近くに加世田市があるが、
ここには「カセダウチ」は残っていない。甑島のトシドンに似たナマハゲ行事のある東北地方に「かせぎどり」とか「かせどり」と
呼ばれる、同じような行事がある。小正月の夜、扮装した若者たちがニワトリの鳴き声などをまねて各家々を訪門して物品を
貰う民間習俗。岩手県でカセギドリ、青森県・宮城県でカセドリ、山形県でカセイドリ、福島県でカッカドリなどと言われている。
九州地方中北部でもカセギドリと言う、東北地方と同じような風習が残っている。

新築のお祝いをしてくれる神様になぜ、硬い座布団や、食べられない食事を出すのか・・
この神様は疫病神や貧乏神などの悪神のようである。座のやり取りの中で、化けの皮を
はごうとする家の人達とバレマイとする神々との応酬。三河漫才を見ている様だった。
結局はお金をもらい、新築の家から退散することになる。

  表紙          次頁23