網野善彦 Amino, Yoshihiko

網野善彦 『続・日本の歴史をよみなおす』 ちくまプリマーブックス・1996年
「百姓=農民なのか?」という問いかけから始まる本書。確かにこれまでの日本史では「百姓=農民」と扱われてきたのかもしれないが、私の中では高校時代の国語教師に「百姓(ひゃくせい)=人民」となんども吹き込まれていたので、「百姓=農民」という認識がそれほど強固でもない。農家の祖父は自分のことを「百姓、百姓」と言ってはいたけど。本書はそういった「百姓=農民」という農本主義への懐疑とこれまでの常識の転倒に貫かれている。廻船商人として裕福な「水呑(一般的には小作人と説明される)」、前田家百万石の能登半島で海辺の重要拠点を押さえる一万石の土方家(一般的には小大名とされる)など、これまで農業中心とされてきた中世、近世の日本社会を、海民、山民といった非農業民が活躍する重商主義社会でもって相対化しようと試みている。こうした見方は、網野氏が自身を「異端」と呼ぶようにいまだ少数派なのであろうが、史料をもとに説明される文章は説得力を持っているし(細かい用語はわからないけど 笑)、何よりこれまでの常識を打ち壊していく新しい視点は魅力的である。日本史に全く興味のないあなたも読んでみて損はしない、日本史入門の書。
2000/12/23
網野善彦 『日本論の視座-列島の社会と国家-』 小学館ライブラリー・1993年
執拗に「単一日本民族」、「単一国家」、「稲作一元論」の相対化をはかる歴史家・網野氏による本書は、『日本民俗文化体系』(小学館)所収の論文が多く含まれているせいか、少し民俗学よりで、堅め。序論として、序章「『日本』という国号」、第一章「日本論の視座」が用意され、「国号としての『日本』」、「日本島国論」、「水田稲作一元論」、「単一民族論」、「単一国家論」など我々がこれまで常識としてきた日本論(今となってはそんなものを素朴に信じる人は少ないだろうが)、日本社会論の持つ問題点を指摘する。そして第2章以降の「遍歴と定住の諸相」、「中世の旅人たち」、「中世『芸能』の場とその特質」、「日本文字社会の特質」といった論文で、先のような問題への批判を試みている(と思う)。中でも「中世の旅人たち」は長くて、民俗学的な研究が多く取り入れられている。宮崎駿の映画『もののけ姫』に網野史学が強い影響を与えたことはよく知られているが、「三 『職人』の遍歴 鋳物師」や「四 遍歴民の衣装」に出てくる記述には「おお、あの職業は・・・」とか「あ〜こんな服着てた」みたいな感想を持った(実際に参考にしたかどうかは知りませんが)。でも網野さんの専門と『もののけ姫』では時代が少々違うか(あの映画、鉄砲出てたよなぁ)。
若干難しめな気がしたので、興味ある方だけどうぞ(じゃないと私のように時間がかかることになる 笑)。
2001/3/29
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