佐々木譲『勇士は還らず』朝日文芸文庫 1997年

 アメリカ・サンディエゴで射殺された日本人は,ひとりの男を追っていた。24年前,ベトナムで行方を絶った男を・・・。 殺された男の友人たちと娘は,犯人と,そして四半世紀前の謎を解くべく,調査を開始する。殺害犯人は誰か? そして戦火のサイゴンではいったいなにが起きたのか?

 どうもまとまりの悪い感じの作品です。1969年,サイゴンで起こった謎の爆死事件と失踪事件,1993年,サンディエゴで起きた殺人事件,このふたつを結ぶ線をめぐって,殺された男の友人たちの調査と,サンディエゴ警察のマルチネス捜査員の捜査,このふたつの流れを中心にストーリーは展開していきます。一方,その間に,サイゴンで失踪したとされる男を中心とした登場人物たちの高校時代のエピソードが挟まれていきます。彼らの出会いのきっかけ,そして彼らが高校3年の夏に関わったベトナム戦争時の米軍脱走兵国外逃亡の幇助事件。これらのエピソードは,なぜ仕事も忙しい登場人物たちが,大切な友人の事件のためとはいえ,急遽渡米することになった心理的背景を説明する上で重要なのでしょうが,少々ページを取りすぎているようにも思います。そのため独立したエピソードとして見れば,それなりにおもしろいのですが,浮いた感じが否めず,冗長になってしまっています。新聞連載という性格上,ところどころに「山場」をつくる必要があったのかもしれませんが,もう少し物語のメインストーリーに有機的に結びつけることができなかったのでしょうか? 

 また登場人物たちが,いよいよ真相に迫るべく“謎の男”へとアプローチしますが,そこらへんあまりリアルさが感じられません。少なくともふたり(あるいは3人)の人間を殺しているかもしれず,さらにアメリカの組織犯罪に深く関わっていると思われる人物に接近するには,あまりに無防備のように思えます。素人が徒手空拳でプロに立ち向かうというのは,冒険小説のひとつのパターンではありますが,やはりそれなりのリアリティというものが求められましょう。そして最後に明かされる真相も,伏線があるとはいえ,とってつけたような印象が拭えません。やはりメインストーリーとの連絡がうまくいってないように思います。エンディングも唐突ですしね。

 これまで読んだこの作者の作品からすれば,けっしておもしろい作品を書けない作家さんではないと思うんですが,どうもこの作品はあまり楽しめませんでした。

97/11/03読了

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