泡坂妻夫『夢の密室』光文社文庫 1998年

 6編よりなる短編集です。

「石の棺」
 ゴルフ場建設現場で発見された古代の石棺。その棺の蓋には「暴くものは必ず死ぬ」と彫られており…
 この作品は,トリックが先行してたんじゃないかと思います。それを無理なく成立させるために,こういった奇妙な設定になったのではないでしょうか? たしかに伏線も引かれ,合理的な解決はつきますが,トリックの元ネタを知らないとあまり楽しめないじゃないでしょうか?
「蛇の棲処」
 映画のロケ先で,女優が毒蛇に咬まれ死亡。現場は密室状態で…
 やはり,「あまり読者に共有されていない知識」をもとにした謎解きは,読んでいてもあまり楽しめません。それにトリックも発想としてはおもしろいと思うのですが,気づかれないのかなぁ?
「凶漢消失」
 古書にはさまっていた「凶漢消失」と題された古文書。そこには衆人環視下での人間消失が描かれており…
 あまりに仕掛けがハイブロウで,わたしにはよくわかりませんでした(笑)。試みとしてはおもしろいのでしょうが…
「トリュフとトナカイ」
 日本に自生していないはずのトリュフを求めて,山中に分け入った彼らは,不可解な事件に巻き込まれ…
 スラプスティック的な雰囲気を出すためでしょうが,とにかく前振りが長く,退屈してしまいます。そのわりにトリックは途中で見当がついてしまいます。ページ数かせぎといってしまっては酷でしょうか?
「ダッキーニ抄」
 奇術が悪魔の所行といわれていた時代,モーリスはマジシャンを目指す…
 この主人公が実在した人物なのかどうかは知りませんが,ミステリというより,一種の綺譚ですね。作者のマジックに対する並々ならぬ愛情が感じられますが,それだけといってしまえばそれだけ,という感もあります。
「夢の密室」
 新しい飲料水カヴァゴールドにはトリップ作用がある? それを飲んだ美箱は密室殺人事件の夢を見て…
 密室殺人を一種のシンボルに見立てた,やはり奇抜な設定の作品ではあります。残念ながら,トリックがあまりに手垢のついたものですので,その設定の奇抜さが浮いてしまっている印象が拭えません。トリックにも,設定に見合った奇抜さがほしかったです。

98/03/27読了

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