梶尾真治『有機戦士バイオム』ハヤカワ文庫 1989年

 36編を収録したショートショート集です。

 ショートショートの魅力には,さまざまなものがありますが,そのうちのひとつに「奇想」,あるいは「発想の楽しさ」があります。表題作「有機戦士バイオム」は,その最たるものと言えましょう。人間がロボットの中に入って戦闘を繰り広げるというSFやアニメでは「定番」であるシチュエーションを逆手にとって,ロボットが「人間」を操るという「発想の逆転」が楽しめます。また「悪魔の臭覚」は,これまた定番の「予知もの」なのですが,その「予知」がタイトルにあるように「臭覚」「匂い」を媒介としている点がおもしろいですね(ところで『悪魔の収穫』というホラー作品があったと思いますが,そのパロディなのかな?)。「歴史がビリヤード」は,思念や精神だけを過去に送り出せることのできるタイム・マシンが引き起こす悲喜劇を描いています。歴史上の「ある悲劇」を回避しようとした結果,より悲惨な結末へといたってしまうところは,どこか人間の歴史に対するアイロニィが感じられます。

 「ばかばしさ」・「スラプスティク」は,ショートショートそのものというより,この作者の持ち味のひとつでしょう。「死霊のちりなべ」は,ゾンビを作る「薬」がちり鍋に入れられたらという,なんともばかばかしい(笑)着想が発端になっています。グルメである主人公の最後の「思い」が苦笑させられます(主人公のグルメぶりをもう少し書き込むと,もっと良かったかも?)。「すぷらった・ばぁばあ」も,ばかばしさという点では共通しますが,なんとなく「あるかも?」的な不気味さがあります。また「わが家のSDI(スペシャル・ディゲンス・イマジネーション)」は,自宅のセキュリティ・システムを異常なまでに固めた男が,その自分の家に入り込むために悪戦苦闘する様を,テンポよくユーモラスに描いています。「ドゥーピンピック2004」もまた「ドゥーピングなんでもアリ」のオリンピック(?)の実況中継です。「強力弛緩剤50メートル走」とか「下剤200メートル走」とか,この作者の「下世話さ全開」といったところでしょう。

 ショートショートにはもうひとつ「奇妙な味」というジャンルもまたあります。「ライター」は,愛する男に,彼の趣味のライターを贈ったことから・・・というお話。ライターという,プレゼントのアイテムとしては当たり前のものが,一方で幸せを,その一方で不幸を呼び込むというエンディングは,なんともアイロニカルです。「伝説」は,地球滅亡直前に宇宙へ脱出した人類のお話です。この手のSF作品では「主人公」であることの多い側の立場を,ラストでひっくり返すことで,ひきつった笑いを引き出しています。「新幹線の対決」は,どなたでも1回や2回,経験のありそうな「居心地の悪いシチュエーション」が取り上げられています。いやなんですよねぇ,こういった時って。そしてブラックでアイロニィの極みとでもいうべき作品が「ハンスの選択」です。「仕事と私のどちらを選ぶの?」という,おそらく日常生活で繰り返されているであろう「よくある会話」を,あるシチュエーションに投げ込んでいます。「苦笑」というにはあまりに重い状況と言えましょう。

 「クリスマスプレゼント」は,行方不明になった爆弾を探すテロリストの焦りがもたらすサスペンス,ラストでの鮮やかなツイスト,ハートウォームなエンディングなどなど,この作者のリリカルな作品に通じるクリスマス・ストーリィですね。

01/07/18読了

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