高橋克彦ほか『ゆきどまり』祥伝社文庫 2000年

 『小説NON』に掲載されたホラー作品9編を集めた,編者なき「アンソロジィ」です。高橋克彦「ゆきどまり」以外は,いずれも1998〜99年に発表された「新品」と言えましょう(「ゆきどまり」はどこかで読んだなぁ,と思っていたら,雨の会編『やっぱりミステリーが好き』(講談社文庫)に収録されていました)。
 ところで,これまで本文庫は「ノン・ポシェット」となっていましたが,本作品集は「祥伝社文庫」とのみ表記されています。文庫名が替わったのでしょうかね?
 気に入った作品についてコメントします。

篠田真由美「人形遊び」
 ママンが昔お話ししてくれた聖女の殉教の伝説。“あたし”もフランシスちゃんに話してあげる…
 親が子どもの寝物語にお伽噺をしてあげている,と思わせる展開は,しだいに違和感が漂い始め,別の視点を導入することで,まったくその姿を変えていきます。さらにもうひとつの新たな視点の導入からカタストロフへと雪崩れ込んでいくところは,足元が崩れ落ちるような不安感を効果的に醸成しています。「怪談」はネタではなく語り口であることを改めて気づかせてくれる一編です。
草上仁「誰かいる」
 誰もいないはず,誰も入れるはずのない部屋に残されたメモ――「おれが見えないのか」…
 親子電話を巧みに用いながらも,オーソドクッスな「幽霊もの」と思わせといて,途中から,じつにグロテスクなサイコ・サスペンスへと変貌していきます。この発想はなんともユニークで新鮮です。さらにその結末にいたって,もうひとひねりするところも,じわじわと恐怖感を盛り上げていますね。
牧野修「終末のマコト」
 病院の一室に閉じこめられたひとりの女。彼女の狂気と妄想が,ひとりの少年を生み出した…
 狂った女の脳髄が生み出した妄想――すべてはその妄想に回収されるはずだったものが,しだいに現実を侵食していくプロセスを,女のモノローグを主体にしながら描き出していきます。あまり得意なタイプの作品ではありませんが,モノローグから滲み出る狂気と,血まみれスプラッタの描写が,濃密で息苦しくなるような作品世界を創り出しているところは,やはり迫力があります。
伏見健二「少女,去りし」
 養女にした姪は美しい少女に成長した。しかし彼女は奇怪な書物にのめり込むようになり…
 義父の少女に対する異常な愛情を描いたサイコ・サスペンス風に展開しながら,ラストで一気にスーパーナチュラルに転じるあたりは,ややバランスに欠けるうらみはあるものの,ある有名な古典に,別の,やはり有名なホラー作品を挿入していて楽しめます。
小林泰三「友達」
 苛められっ子の“僕”は,自分自身の理想像を「親友」として作りだしたのだが…
 本集に収められている作品には,途中まではそれなりに緊迫感があり楽しめながらも,オチがありきたりというか,インパクトに弱いように思える作品が目につきます。そんな中で,本編は,オーソドックスな「ドッペルゲンガ・ネタ」を用いながらも,ラストで思わぬツイストを見せる点,そういった作品とは一線を画しています。

00/08/11読了

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