エドワード・D・ホック『夜はわが友』創元推理文庫 2001年

 「どうするつもりなのか,自分でもわからないわ。でも,自分がどうするつもりなのか,わかる人なんているのかしら?」(本書「雪の遊園地」より)

 数多くのシリーズ・キャラクタを創出した作家として有名なこの作者の「ノン・シリーズ」短編21編を収録しています。
 気に入った作品についてコメントします。

「黄昏の雷鳴」
 戦争中の犯罪を元に脅迫された男は…
 この結末を「肩すかし」と感じられる方もおられるかと思いますが,これもまた「犯罪」を描いた作品と言えましょう。主人公の心の揺れ動きを効果的に描いたエンディングは,単純に「苦い」とも言い切れない「隠し味」が含まれていますね。
「スーツケース」
 飛行機事故の現場から拾ったスーツケースに入っていたものは…
 まさに「魔が差す」という一瞬があるのでしょう。それがもたらした夫婦の不和と,あまりに皮肉なエンディングを思うとき,その「魔」の不気味さが湧き出てくるようです。
「ピクニック日和」
 10歳の頃,祖父が連れて行ってくれたピクニックで,衆人環視の元で不可解な殺人事件が…
 トリックそのものはさほど新鮮味は感じられませんが,伏線の引き方が巧いですね。また,少年の頃のピクニックに対するノスタルジィにあふれた描写や,祖父に対する愛情が伝わってくる描写が心地よいです。
「雪の遊園地」
 死体に残されていたメモを手がかりに,弁護士のサムは冬の遊園地を訪れた…
 怪しい振る舞いをする男,カルト集団を主催する謎の男などなど,果たして犯人は誰なのか,というオーソドクスな展開の末の思わぬツイスト。犯人が明らかになる伏線と,その人物が犯人である必然性の伏線,ともに効いています。それにしてもこの作者,「サム」という名の主人公が好きなようですね。
「夢は一人で見るもの」
 ヘレンの予知夢を頼りに,犯罪を繰り返すデイヴだが…
 ラストの一言で,それまでの設定と展開が「くるり」とひっくり返るところがいいですね。それとともに「人を呪わば・・・」的な結末がビターな味わいを与えています。
「秘密の場所」
 トラクターから落ちて死んだ伯父。彼は殺されたのか?
 この作品も主人公が10歳の頃を回想するという「ピクニック日和」と同じ設定の作品です。親族からも嫌われながらも,子どもには敬愛される変わり者の叔父さんというキャラは,古今東西,けっこうあるんですね。
「おまえだけを」
 別れた妻に,置いていった毛皮と宝石を渡してほしいと頼まれた男は…
 ハードボイルド・タッチに展開するストーリィが,ラストにいたって思わぬ結末を迎えるところは,この作者らしいと言えばらしいですね。その結果,ハードボイル以上に苦みのあるエンディングになっています。
「初犯」
 友人から,銀行の金を強奪しようと持ちかけられ…
 家族との確執や,故郷を飛び出たいという若者の気持ちを上手に描き出しています。そこにヴェトナム戦争が影を落としているところは時代性なのでしょう。
「谷間の鷹」
 放浪を続けるタッカーは,ハーモニカが得意だった…
 オチそのものは見当が付きますが,酒場でハーモニカを吹きながら,各地を転々とするというのは,アメリカらしい雰囲気がよく伝わってきます。
「陰のチャンピオン」
 ヘヴィ級チャンピオンとなったボクサーの元に,不可解な招待状が届き…
 ボクシング界で囁かれていそうな「都市伝説」を思わせるストーリィです。父親に責任転嫁して自分の行為を正当化する「陰のチャンピオン」の狂気が怖いですね。ラストでのツイストも鮮やかです。

01/08/15読了

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