山田正紀『妖鳥 ハルピュイア』幻冬舎ノベルズ 1997年

 多摩丘陵に建つ聖バード病院。そこでは,死者が出るたびに妖鳥ハルピュイアが啼くという。入院中の先輩刑事から,ある看護婦を探すよう頼まれた刈谷は,単独で捜査を始めるが,その過程でつぎつぎと明らかになる不可解な事件。一方,真っ暗闇の密室に閉じこめられた女は,絶望的な状況下で,失われた過去を追い求める。わたしはいったい何者なのか? そして「女は天使なのか悪魔なのか?」

 『神狩り』『弥勒戦争』『50億ドルの遺産』・・・。山田正紀を読むのは何年ぶりでしょうか。わたしにとって,とんでもなくなつかしい作家です。

 始まりはなんとも不可解というか,オカルティックというか,けっこう魅力的です。密室状態の無菌室で縊死を遂げた,死の間際の病人は,自殺なのか,他殺なのか? そして入院中の刑事が臨死体験の最中で見たという,死体を前にした看護婦の笑いは何を意味するのか? 何もないところから発火して死んだ女は誰か? そしてその死体はなぜ,どこに消えたのか? 墜死した男の躰は,なぜ数十mも移動したのか? そして監禁状態の女は誰なのか? 刈谷の捜査で浮かび上がったふたりの女,新枝彌撒子なのか,藤井葉月なのか? とにかく,さまざまな不可解な謎が,次から次へと出てきます。ハルピュイアの噂が流れる大病院の不気味な描写とあいまって,それなりに雰囲気はあります。またそれらの謎解きも,好みもあるでしょうが,それなりに決着がついてます(個人的には「墜死した男の謎」が好きです)。

 ただストーリーの展開は,なんというか物足りない感じがしてなりません。物語は,監禁された記憶喪失の女性と,刈谷刑事の捜査の両方が,交互に描かれており(分量的には後者が多いですが),どちらもそれぞれに魅力的なストーリー展開はしているのですが,けっきょく,監禁された女性の物語が,刈谷刑事のストーリーの「裏話」のようになっていまい,どちらも中途半端になってしまっているようです。このような,明らかに密接に有機的に関係する複数のシーンが並行して進む場合,両者の進み方になんらかの関連がもたせたほうがよかったのではないでしょうか。たとえば,密室のシーンで女性が推理してわかったことが,刈谷刑事の別のアプローチからの捜査で裏づけられるとかすれば,もっとサスペンスが盛り上がったのではないでしょうか? それに「女は天使か悪魔か」という本書のメインモチーフも,なんだか女性に対して失礼な設問ですよね,ひとりひとりの女性に個性が無いかのようで・・・。

 帯で法月綸太郎が「手術台の上で,『シンデレラの罠』と『虚無への供物』が衝撃的に出会う。」と,シュールリレアリズムの詩(だったかな?)の一節をもじった惹句を書いてますが,衝撃的に出会ったからといって,それが幸福な出会いであったかどうかは,また別の問題でしょう。大事なのは「出会い方」ではなく「つきあい方」ですから,なにごとも・・・。

97/04/19読了

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