有栖川有栖『山伏地蔵坊の放浪』東京創元社 1996年

 毎週土曜日,スナック『えいぷりる』に集まった“僕”たち常連は,ひとりの男の来訪を心待ちにしている。男の名前は地蔵坊,職業(?)は山伏。彼が旅先で遭遇した珍奇で,ミステリアスな事件の顛末を聴くために…
 という設定の連作短編集です。地蔵坊が語るのが,本当に彼の“体験”なのか,それとも“法螺話”なのか,はっきりしないところが,作品全体にユーモラスな雰囲気を醸し出しています(山伏だけに「法螺」は付き物・・・というお寒いギャグは置いておいて^^;;)。まぁ,一種の「推理ゲーム」みたいな感じですね,この作者お得意の…。

 フクさん@UNCHARTED SPACEから,「22,223アクセス記念(前後賞)」でいただいた5冊のミステリのうちの1冊です。フクさん,ありがとうございました(_○_)。

「ローカル線とシンデレラ」
 地蔵坊の乗ったローカル線で殺人事件が発生。ところが犯人は煙のように消えてしまい…
 なかなか大がかりなおもしろいトリックだとは思いますが,それを成り立たせるための背景がいまひとつ弱いような気もします。ところで,作中「トラベル・ミステリ」のことを,「推理小説というか,殺人と列車と刑事,の三題噺みたいなものですけどね」といっているのは適評ですね(笑)。
「仮装パーティの夜」
 地蔵坊が迷い込んだ仮装パーティで殺人事件が発生!
 仮装パーティとくれば,こういうトリックは予想できてしまいますね。でも,ラストの一文,たしかに言われてみれば,といったところです。
「崖の教祖」
 排他的な新興宗教に入った娘を説得すべく教団を訪れた地蔵坊。その教祖が爆殺され…
 う〜む,前振りが長いわりには,トリックがちょっと単純すぎる感じです。それこそ「推理クイズ」にちょこちょこっと肉付けしたといった印象が強いです。
「毒の晩餐会」
 突如現れた隠し子を囲んでのギスギスした晩餐会に混じり込んだ地蔵坊。その隠し子が毒殺され…
 誰も触れることのできなかったビールにどのようにして毒が入れられたか,という不可能犯罪を描いた作品です。結果的には「不可能犯罪」になってますが,もとの計画はあまりにお粗末ですね。もちろん作者の狙いは別のところにありますが,そこらへんがちょっと残念。
「死ぬ時はひとり」
 偶然知り合った元ヤクザが,密室状況で射殺された…
 以前読んだことがあるのですが,どこで読んだか,どうしても思い出せません(と…鳥頭…(^^ゞ)。単独で読めばそれなりに楽しめるのでしょうが,「毒の晩餐会」と続けて読むのは,どうも・・・^^;;
「割れたガラス窓」
 山中でトリュフ探しをしている男の家に招かれた地蔵坊。その男が殺され…
 やっぱりこの作品も広い意味で「密室」ということになるのでしょうね。「推理クイズ」でしばしば見られるシチュエーションをうまくひねっていて,トリックとしては,本作品集中,一番楽しめました。もう少し伏線のほしいところですが…
「天馬博士の昇天」
 崖の上の家に住む発明家・天馬博士。墜死した彼の頭部には殺人の痕跡が…
 「雪密室」です。作中人物が,わざわざ「伏線」のことを発言しているところを見ると,作者としても,伏線の弱さが気に掛かっていたんでしょうかね?(笑)

99/01/11読了

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