小池真理子『うわさ』光文社文庫 1998年

 4編を収録した短編集です。

「独楽の回転」
 精力的で活動的,いっときも腰を落ち着けず仕事に邁進する夫。麻子はそんな彼にうんざりしはじめ…
 いますね,こういうタイプ。ときおり会う分には,こちらにもエネルギィが供給される感じでいやではないのですが,もし夫婦のように,年がら年中,顔をつきあわせていると,おそらく殺意のひとつも湧くでしょう。主人公の気持ちがなんとなくわかります^^;; そんなアグレッシブな性格を「独楽」に喩えたところが秀逸です。アイロニカルなラストもこの作者のお手の物,といった感じでいいです。
「災厄の犬」
 その犬が我が家に来てから,不運なことばかりが続く。だから彼はその犬を捨てようとして…
 サスペンスとして読むと,ちょっと出来過ぎのところもありますが,ホラーとして読めば,ラストの偶然の重なりには,ぞわぞわする「悪意」の存在が感じられます。ところで犬って笑うんですか?
「ひぐらし荘の女主人」
 偶然知り合い,深い仲になってしまった女。大財閥の銀行頭取の妾だという彼女は,彼の耳に恐ろしい計画を囁く…
 「正統派毒婦もの」とでも言いましょうか…(そんなんに「正統派」があるのかどうか知りませんが(^^ゞ)。やっぱり,こういった男を魅了し,操り,破滅させていくタイプの女性というのはいるのでしょうね。あまりおつき合いしたくありませんが(笑)。個人的には,ヒロインの女性よりも,それに付き従う忠実な婆やの方に,なんともいえぬ不気味さを感じました。
「うわさ」
 優秀なヘルパーである珠世。勤め先の老婦人が急死したことから,「珠世が殺した」といううわさがたち…
 途中まではけっこうおもしろく読めるのですが,後半の展開にちょっと無理が感じられます。ラストを導き出すために必要なのかもしれませんが,どこか木に竹を接いだような印象が残ってしまいます。後半出てくる人物を最初から描いていた方が,まとまりが良かったのではないかと思います。またタイトルの「うわさ」がいまひとつ生かされていない感じがするのも残念です。

98/10/20読了

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