井上雅彦監修『宇宙生物ゾーン 異形コレクションXV』廣済堂文庫 2000年

 本書のテーマ「宇宙生物」に「出会う」ためには,三つの方法があります。
 ひとつは,彼らの棲息圏である宇宙にみずからおもむくこと。きっと地球上ではお目にかかれない,多種多彩な宇宙生物に出会えるでしょう。ですが,不用心に熊の巣穴にはいっていけばどうなるか,火を見るよりも明らかなように,彼らのテリトリに勝手に侵入すると,ひどい目に遭う場合もあることを注意しなければなりません。
 ふたつ目は,地球上でひたすら待つこと。さながら海流がさまざまな物品を運ぶように,宇宙を流れる「なにか」が,宇宙生物を運んできてくれるかもしれません。もちろんどんなものかは保証の限りではありませんが。またこれだけ広い宇宙であれば,こんな辺境の星を征服したいなどと思ってくれる(かつての円谷特撮シリーズの怪獣のような)奇特な宇宙生物が,どこかにいるかもしれません。
 そして三つ目の「宇宙生物」に出会う方法が一番簡単です。冷酷で情愛にあふれ,残忍で穏和,好戦的で平和を愛する,不可思議な「宇宙生物」に会えます。そう,鏡をのぞき込むだけで…
 気に入った作品についてコメントします。

江坂遊「火星ミミズ」
 火星探査船が持ち帰ったヴィデオには奇妙な映像が映っており…
 奇抜な発想が光るショート・ショートです。ラストもニヤリとさせられます。ところで,この映像を撮ったのは誰なのでしょう?
野尻抱介「月に祈るもの」
 月で発見された奇怪な化石は,いったい何を物語っているのか…
 SF的な設定ながら,どこか綺譚といった趣のある作品です。月面で発見された化石は,生きるための「祈り」そのものの「化石」と言えるかもしれません。それは,なぜか他人事ではないようにも思えます。
岡本賢一「言の実」
 惑星テグチャで発見された“ナーの実”は,食料として大量に地球に輸出されたが…
 グロテスクな侵略ものと思わせておいてのツイストはきれいですね。ラストで,不思議なタイトルが意味を持ってくるところもおもしろいです。
大場惑「夜を駆けるけものたち」
 夜の世界にのみ動物が生きる惑星に,観光旅行に来た“俺”たちは…
 極暑の“昼”から逃れるために,ひたすら夜の世界を駆けつづける動物たち,そして彼らを追い続ける者たち,というイメージはじつにいいのですが,ストーリィにちょっと「贅肉」が多すぎるようで,そこらへんが残念。
田中啓文「三人」
 閉ざされた恒星間宇宙船の中で,ジロウとマリアとイヴは…
 オチは,ありがちなところもありますが,「ぶれた視点」で描き出される,この作者お得意のグロテスクなシーンは,目眩を誘います。
とり・みき「宇宙麺」
 各地で発見された奇妙な生物は,その形状から「ラーメン状生物」と名づけられた…
 タイトルは,日本SF草創期の同人誌『宇宙塵』のパロディでしょうか?(わたし,現物は見たことないんですが・・・)。内容的には(例によって^^;;)ナンセンスではありますが,オープニング・シーンとエンディング・シーンはなんともエグイですね(笑)。
ひかわ玲子「話してはいけない」
 「話してはいけないんだ。本当は。いけないんだけれども…」
 ストーリィはオーソドックスなのですが,異形の存在を,子どもの目を通じて「外人」として描いたり,「話してはいけない」という,人間の心に根強く宿る「タブー侵犯への誘惑」を取り上げているところは,着眼点がいいですね。
五代ゆう「バルンガの日」
 “奴”が,いつ,どこから現れたのか誰も知らない。しかし“奴”のせいで人類は滅亡への道を確実に歩み始めた…
 テレビ放映の翌朝,わたしも東の空を見上げたひとりです(笑)。たしか原作(?)でも,老科学者の悲しい想いが描かれていたように記憶していますが,この作品でも,グロテスクなイメージが氾濫する中,同質の哀しみを盛り込んでいるように思います。
笹山量子「占い天使」
 マンションに突然現れたそいつは,人類の命運を握っているというのだが…
 異星人と人類とが,代表者同士で互いの命運を賭けて対決する,という発想は,先行作品がいくつかあると思うのですが(藤子・F・不二雄とか),この作品の「人類代表」のとぼけたところが,なんとも笑えます。人類を救ったのは主人公ではなくて,じつは・・・というところも楽しいです。
横田順彌「来訪者」
 「わたしは宇宙人類なんですよ」押川春浪の前に現れた老婆は,そう語り…
 本集中,さまざまな「宇宙生物」が出てきますが,上品な老婆の姿にさせているところが,この作品の秀逸さと言えましょう。そのしっとりとした丁寧な語り口がいいですね。
堀晃「時間虫」
 ワープ・チャンネルを抜けると,時間が逆行するという怪現象が続発し…
 苦手なスカトロ・ネタかなとも思いましたが,「時間虫」による「時間逆行」を,じつに奇抜な手法で描いてみせていて,楽しめました。ホッとさせておいて,もうひとひねり,というラストの着地も上手です。本集中,一番おもしろかったです。

00/03/10読了

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