東野圭吾『美しき凶器』光文社文庫 1997年

 スポーツ界で名を馳せ,安定した生活も得た4人の男女。だが,彼らには人には知られぬ暗い過去を共有していた。その過去を抹殺するため,彼らは秘密を知る仙堂之則を殺害する。しかし仙堂のもとには,呪われたスポーツドクターとしての長年の研究成果“タランチュラ”がいた。それは褐色の肌と鍛え上げられた肉体をもつ女だった。彼女の復讐の牙が彼らを襲う。

 この作者お得意の「スポーツもの」&「ハイテク医学もの(?)」とでもいえましょうか。4人の男女,“タランチュラ”,警察,それぞれの動きを追いながら,物語はハイテンポに進みます。次に襲われるのは誰か? “タランチュラ”の素性は? 後手後手に回る警察は間に合うのか? などなど,なかなか手に汗握る展開です。構成そのものは,先日読んだ『ブルータスの心臓』に近いですが,出来はこちらのほうが,はるかにいいです。とくにクライマックスシーンで明かされる真相は,ひねりが利いていて,「おおっ」という気持ちと,「なるほど」という気持ちで,けっこう楽しめました。そこまで読むと,タイトルもなかなか意味深です。「凶器」と「狂気」とは,音が同じというところがミソですね。また“タランチュラ”が「難しい漢字が読めない」という設定が,サスペンスを高めるのに役立っている点,おもしろく感じました。

 以前,『オーメン』という映画で,奇抜で多彩な(?)殺しのシーンが話題になりましたが,この作品のふたり目の犠牲者は,それを彷彿させるところがあります。また“タランチュラ”の方は,スポーツ版「ジェイソン」といったところでしょうか。もともと東野圭吾の作品は,映像性が豊かだと思っていましたが,この作品はとくにその感が強かったです。

97/03/22読了

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