田中啓文『UMAハンター馬子 闇に光る目』学研ウルフ・ノベルス 2003年

 唯我独尊,傲岸不遜,傍若無人,おまけに下品で淫乱,やることなすことハチャメチャな蘇我屋馬子と,馬子の(性格とはまったく違う)すばらしい「おんびき祭文」に感動してしまったがために,人生を誤ってしまった(笑)健気少女イルカが,UMA(未確認動物)相手に活躍する伝奇シリーズの第2弾です。3編を収録しています。

 伝奇小説の醍醐味といえば,やはり,一見関係なさそうに見える歴史上,民俗上の物事を,作者の想像力でもって「えいや!」とばかりに結びつけるところにあるのでしょう。そしてその「結びつき」が,いかにもありそうに見えるよう描けるかどうかが,伝奇作者の力量の発揮どころと言えます。
 さて本集に収められた3編のうち,比較的長い2編−「恐怖の超猿人」「闇に光る目」は,ともに,そんなオーソドクスな伝奇小説の「作法」を踏襲しています。「超猿人」では,奥飛騨にいるという獣人ヒダゴン,河童や“ひだる神”といった民俗説話,さらにはヒダゴン原理主義者なる怪しげなカルト集団などが登場します。また「闇に…」では,『日本書紀』に伝えられる「相撲起源神話」と,黄泉の国から持ち帰られたという“非時香果(ときじくのかぐのみ)”のエピソード,謎の吸血動物チュパカブラ,そしておどろおどろしいプロローグと,こちらも同様です。まさに正統伝奇小説に見られる設定・道具立てと言えましょう。
 しかし!! この2編の「本領」は,そういった設定・道具立てにあるのではありません。上に書いたような伝奇小説の醍醐味,つまりそれぞれの「結び付け方」にあります。ならば,どう結びつけられているか,というと,この作者の十八番中の十八番「ダジャレ」なのです!!(笑)
 しかも,それが単なるダジャレじゃない(ちなみに,この作者の作品に対して「単なるダジャレ」と非難めいたことを言うのは的を射ていません。だって確信犯ですもの)。その「ダジャレ」には,ある共通点があるのです。そしてその共通点は,巧妙に隠蔽されていて,最後になって,それが明かされるという趣向になっていますが,その隠し方が笑ってしまうのです。
 たとえば「超猿人」の舞台伊豆鼠村。途中で「おそらく,このネーミングもなんか意味があるのだろう」と思ってはいても,その「正体」には,思わず大笑いしてしまいました。また「闇に…」に出てくる国咎罪(くにとがつみ)神社は,いかにも記紀神話と結びつきそうなジャパネスクな名前なのですが,これまた,その共通性に則った「意味」が隠されていて,こちらは正直巧いな,と感心してしまいました。
 そんな目で,一番短い「水中からの挑戦」を読むと,これまた作者の得意技−ゲロゲロ・ベチャベチャの悪趣味全開作品のように見えて,そのじつ,雰囲気は,その「共通点」と響きあうものがあるように思えます。
 つまり,伝奇小説のオーソドクスなアイテムとフォーマットを踏襲しつつ,それらを「ダジャレ」で結びつけ,さらに,遊び心にあふれた「仕掛け」を施す,おまけに例によっての馬子&イルカのスラプスティクを挿入することで,じつにユニークな,ユーモア伝奇小説へと仕立て上げていると言えましょう。

 ところで「超猿人」に出てくる“ヒダゴン原理主義者”の「祭文」−かっぱっぱー,ちっぱっぱー…って,「清酒○桜」のCMソングが元ネタなんでしょうね。今でもこのCM,放映しているのかな?

03/08/03読了

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