田中啓文『UMAハンター馬子(1) 湖の秘密』学研M文庫 2002年

 蘇我家(そがのや)馬子−数少ない「おんびき祭文」のすぐれた伝承者ながら,その性格は,がめつくて,わがままな上に下品,おまけにどすけべぇと「最悪」の一言に尽きる「大阪のおばはん」。そんな彼女,「不老不死」の謎を求めて,弟子のイルカを引き連れ,日本全国を東奔西走。しかし,なぜか行く先々で「UMA(ユーマ=未確認動物)」に遭遇し……

 まず「看板に偽りアリ」というところが,じつにこの作者らしいですね(笑) 「UMAハンター」ってなってますが,主人公蘇我屋馬子の目的は,「UMA」を「ハント」することではありません。本巻では,その真意はまだ明らかにされていませんが,彼女の目的は「不老不死」の謎を追いかけることのようです。で,あくまで「結果的に」UMAに遭遇する,というわけであって,けっして「UMAハンター」ではありません^^;; このほか,「馬子」の弟子が「イルカ」だったり,各エピソードの間に挿入された「ベストヒットUMA」なるエッセイ(?)のタイトルにも,「ダウナー系ダジャレの帝王」(笑)であるこの作者の持ち味が炸裂しています。

 さて「第一話 湖の秘密」のネタは,UMAの中でももっとも有名なUMAネッシーです。村おこしイベントに呼ばれ,龍鳴村を訪れた馬子イルカ。彼らはそこで,新龍鳴湖に棲むという怪獣リュッシーに遭遇し…というお話。リュッシーが出るという新龍鳴湖が人造湖であることが判明し,さらにイルカが作った「リュッシー出現地点地図」の思いっきり怪しげな「偏り」を見て,「あ,お馬鹿なオチかなぁ」と思ったのですが,お馬鹿であることは変わりないものの(笑),けっこうツイストの効いたオチで楽しめました。ただもうちょっとコンパクトにまとめた方がよかったのでは? そうそう,鹿児島にある池田湖,いまでもイッシーの看板が立ってます(笑)
 ネッシーが世界でもっとも有名ならば,日本で一番有名なUMAツチノコを扱ったのが,「第二話 魔の山へ飛べ」です。小学生の頃でしたでしょうか,流行ったんですよね,これ。作中でも紹介されている矢口高雄『幻の怪蛇・バチヘビ』(最近,文庫化されましたね)が出て,クラスの男の子同士で,「ツチノコはいる? いない?」で大論争が巻き起こりました。で,女の子たちはそれを冷ややかに見てましたが,それはやっぱり,本編中で馬子が言っているように「たかが蛇」の話なんですよね(笑)。そのせいでしょうか,本作品中で馬子が明らかにした「ツチノコ」の正体……う〜む,身も蓋もない^^;; 逆に「黒孔山」の「真相」は,ちと大げさすぎて,バランスが悪い感じがしますね。
 「第三話 あなたはだあれ?」のUMAはキツネ。「え? キツネってUMA?」と思い,おまけに人を化かすのは普通のキツネじゃなくて,じつは「超キツネ」というUMAなんだ,という,なんとも強引な展開で,「をいをい」という感じでしたが,ラストで意外な結末。「たしかにUMAだよなぁ」と感心することしきり。また「狐火」の正体など,上手な伏線となっていて,ミステリとしての顔も持っている本編が,一番おもしろく読めました。
 ところで,このエピソードで,謎の老婆にシンパシィと反感を抱く馬子の姿が描かれますが,なんとなく馬子の「正体」が匂わされていますね。さてさて,馬子はいったい何者? それとともに,同じく「不老不死」を求める黒衣伝説男(笑)山野千太郎,どうやら背後にどでかい陰謀が隠されている様子。それが馬子の正体とどう絡むのか? シリーズものとしての楽しみもまだまだありそうです。

 ところで各編のタイトル,いずれも「ウルトラセブン」が元ネタのようですね。

02/02/28読了

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