梶尾真治『チョコレート・パフェ浄土』ハヤカワ文庫 1988年

 ホラー・タッチ,ファンタジィ・テイスト,ブラック・ユーモア,グロテスク,ナンセンス…さまざまな趣向の短編掌編10編を収録しています。
 気に入った作品についてコメントします。

「煉獄夜想曲(ノクターン)」
 刹子は,9年間住んだアパートを出て,故郷に帰ろうと決心するが…
 都会の生活に疲れた女性が故郷に帰るという,平凡なシチュエーションから,しだいしだいに奇怪な世界へと滑り込んでいく展開が楽しめます。ホラーでお馴染みのネタを,当たり前の風景に持ち込むことで不思議な雰囲気を醸し出しています。
「チョコレート・パフェ浄土」
 38歳の“私”にとって,チョコレート・パフェを注文するのは,それはそれは勇気のいることで…
 内容的にというより,個人的な思い出と関連することから楽しく読めました。高校時代,友人たちとデパートのレストランに行ったとき,友人のひとりがチョコレート・パフェを頼みました。そのときに感じた,なんとも言えぬ「いたたまれなさ」がありありと浮かび上がってきた一編です。たしかに恥ずかしいんですよねぇ・・・^^;; ところでこの作品の「浄土」というのは別の意味がありそうですね。
「夢の神々結社」
 ゼンダカこと“ぼく”には親友がいる。心だけで通じ合う“心友”が…
 ファンタジィ・テイストな一編。日本とアフリカの奥地という,天と地ほども離れたふたりの少年の(文字通り)心の交流を,ときにコミカルに,ときにせつなく描き出しています。とくに主人公の「成長」とともに,ヤッホーの声が聞こえるだけで,返すことができないという展開は,じつにせつないものがあります。また哀しくもあり,また希望をもたせるエンディングが,ハート・ウォームな作品に仕上げています。作品によっては,ちょっとミスマッチなところもあった横山えいじのカットも,この作品ではフィットしてますね。本集中,一番楽しめました。
「吉田屋前のバス停にて」
 剛介がメモがわりに使ったテレフォン・クラブのちらし。老妻は軽い気持ちでそこに電話し…
 W・W・ジェイコブズの古典的な怪談「猿の手」のカジシン・ヴァージョンといったところでしょうか。「夢」は「夢」のままで留まるからこそ,美しいのかもしれません。
「魔窟萬寿荘」
 プルトニウムを盗んだ男が,それでミズムシを直そうとしたことから…
 もう,思いっきり悪趣味でブラックな作品です。思わず全身が痒くなります(笑)。ミズムシが放射能で突然変異を起こして人間を襲うというスラプスティクですが,ところどころに挟まれる辛口なパロディが「にやり」とさせられます。
「“ヒト”はかつて尼那を・・・」
 父親とともに,ドニ・ワルッィエン星を訪れたパンチェスタは,その「保護区」で最後の“ヒト”と出会い…
 侵略者の側から描いた「人類滅亡」の物語です。そこに古いラヴ・ロマンスを重ね合わせることで,静かでもの悲しい作品となっています。また滅亡の直前になって,侵略者と“ヒト”が心を通いあわせることができたというシチュエーションも,アイロニカルながら,胸に「ずん」とくるものがあります。

00/04/11読了

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