清水義範『茶色い部屋の謎』光文社文庫 1997年

 清水義範の作品は好きで,よく読みますが,それは「パスティーシュ」と呼ばれている作品で,ミステリはほとんど読んだことがありませんでした。今回もじつはタイトルから「あ,『黄色い部屋の謎』のパロディだな」と思って買いました。ところが内容はいずれもミステリ仕立てで(2編だけ違いますが),考えていたのとちょっと違いました。ミステリとして読むと,「(*o*)」としかつけようがないのですが,そこはやはり清水義範でして,いろいろと仕掛けがあって,それなりに楽しめました。ですから「(-o-)」マークは,ミステリとしてではなく,やはり一種のパスティーシュとしての評価と思ってください。

「茶色い部屋の謎」
 1ページ目で「にやり」と笑い,最後のページで大笑いしました。登場人物の猿夫という8歳の子供は「鈍器,という字を見ても読めずに,楽器のことかな,と思うくらいの知能しかないわけですよ」というセリフにも笑ってしまいました。
「また盗まれた手紙」
 ポーの「盗まれた手紙」のパロディというか後日談というか。デュパンが主人公になっていますが,その推理方法をおちょっくているところあたり,この作者らしいです。ただトリックはそれなりに面白いと思いました。
「浮かばれない男たち」
 幽霊探偵ものというのは,どこか外国の古典推理にあったような・・。ミステリとしてはちょっと・・・。
「幽霊探偵と全裸美女」
 幽霊探偵ものの第二弾。ミステリにおけるシリーズキャラクターへのパロディかな?
「誘拐屋繁盛記」
 ヨーロッパではプロの誘拐犯というのがいるらしいですが,それをもとにしたのかもしれません。セリフが「マクドナルド的」で笑えます。
「八倍ズームの証言」
 まっとうなミステリですが,この人は,まっとうなやつを書くと面白くないという,なんとも不思議な作家です。
「ベッドサイドストーリー“お電話ください”」
 なにか奇妙な味わいのある作品です。「電話」のもつ不気味さが出ています。
「分別ゴミ」
 ショートショートですね。内容的にはううむ・・・・。
「領収証ください」
 これもショートショートですが,やはりうううむ・・・・。
「トンネル」
 唯一のホラーです。帰宅時の電車が通るトンネルで,壁のくぼんだ所にこたつが見えた,という奇妙な光景から始まり,なかなか魅力的です。しかし落ちは,ありがちです。
「バイライフ」
 「これはSFみたいに見えますが,実話なんですよ」という体裁のSFのようでいて,じつは「深夜の弁明」SF編です。そうかそうか,松本清張も,赤川次郎も,半村良もそうだったのか(笑)。しかし「M・Y」は大丈夫か?
「やっとかめ探偵団のバス・ツアー」
 これ読んで,「ああそういえば,これと同じ設定の作品読んだことあるな」と思い出しました。これが「やっとかめ探偵団」シリーズだったんですね。しかし,ミステリとしては(*o*)です。だって司法解剖すれば,すぐにばれますよ。

97/03/16読了

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