竹河聖『月のない夜に』ハルキ文庫 1997年

 8編よりなるホラー短編集です。いずれの作品も,それなりにまとまっていて「お話」にはなっているんですが,オーソドックスというか,平凡というか・・・。なかには「ホラー」というより「怪談」(それも,残念ながら,よくありがちな)といったほうがよさそうな作品もあります。

「煙」
 初恋の相手は,風呂屋にはかわいい少女だった。が,彼女は殺されてしまい…
 「封印された記憶もの」とでもいうのでしょうか。主人公の過去が蘇るとともに,彼を襲う奇妙な「煙」。冒頭で喉が弱くて煙が苦手,という風に主人公が設定されているのですが,どうも「煙に襲われる」というのはいまいち迫力がないですね。オチもありきたりだし・・・。しかし火葬場って,いまでも高い煙突があるんでしょうか。作品とは関係ないんですが,以前に読んだ詩(?)の一節を思い出しました。
いと高き煙突の下(もと)
湯の中で生者は憩い
火の中で死者はまどろむ
「ついてくる」
 旅行先のペンション村,深夜の散歩に出た女性ふたりのあとを,ひたひたと足音がついてくる…
 そこらへんに転がっている陳腐な怪談ですよ,これじゃあ。デビュー前の作品だそうです。そうかそうか。
「11月の子ども」
 菱子を見つめるひとりの少女。彼女はいったい誰?
 これも似たような怪談話か因縁話。この作品と前作とは,旅行先の夜,友人たちとする「怖い話」とどっこいどっこいじゃないですか?
「悪夢のかたち」
 子どもの頃,病弱だった“私”は,いつも愛猫“きい”とともに夢を見て過ごしていた…
 人の夢と猫の夢,夢と現実,それらが入り交じり,溶け合っていく・・,そんなお話です。だからなんなんだ,という感じです。
「サボテン」
 妙に惹かれて買ってしまったサボテン。ところがそれは不思議な力を持っていて…
 「人を襲うサボテン」なんて,B級ホラー映画ですね。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』ですか?
「水妖」
 豪雨の山中,道に迷った男は,不思議な美女と巡り会い…
 「あとがき」によれば「伝奇特集」に載せた作品だそうです。「山中他界」とでもいうのでしょうか,たしかに中国の伝奇や伝説に出てきそうな話ですね。崩れる女と「赤ちゃん」が怖いです。
「蜥蜴」
 その奇妙な美しさに惹かれて買った蜥蜴。かわいがる飼い主の体に異変が…
 この作品と次の作品は,「怖い」というより「気持ち悪い」という類の内容です。「なぜ」とか「どうして」とかが,いっさい不明の不条理ホラーです。あんまり趣味じゃないです。
「月のない夜に」
 ある月のない夜。子ども頃から虫が怖い“あたし”の前に現れた人影…
 ぐわああああ…。だめなんです,わたしも。小さな虫がうじゃうじゃ集まってるのって。想像しただけで鳥肌がたってしまいます。いやあああ,やめて,やめてえええ…(嫌悪感が先立って,感想文が書けません。すみません)

97/07/24読了

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