ジャック・フットレル『思考機械の事件簿III』創元推理文庫 1998年

「二足す二はときどき四になるのではなく,つねに四になる。真実とはそういうものだ。」(本書より)

 ソーンダイク博士,隅の老人,アブナー伯父,プリンス・ザレスキー,そして“思考機械”ことヴァン・ドゥーゼン教授・・・。中学の頃に読んだ『名探偵事典』といった類の本で知った名探偵たち。彼らの活躍を読みたくて仕方がなかったのですが,当時,彼らを描いた作品は,わたしの手の届く範囲にはありませんでした。が,そんな折り,創元推理文庫から「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」というシリーズ名で,それらの作品が続々と翻訳出版されました。そのときの至福感といったら!
 先日,本屋で本書を見つけ,「おや,ひさしぶり」と手に取ってみると,表紙にはしっかりと「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」というサブタイトルが・・・。「ああ,まだ続いていたんだぁ」と感じ入ってしまい,さっそく購入,読んでみました。
 6編の短編と1編の中編を収録しています。気に入った作品についてコメントします・・・・,と,その前にちょっと苦言を。
 本書では各編の冒頭に,書誌データと短いコメントが記されているのですが,その中には,ネタばれに近いものが含まれており,ミステリ作品に対する冒頭のコメントとしては,明らかに逸脱したものだと思います。また「物語的には見るべきものがないが」「暗号としてはきわめて初歩的なもの」など,読む気を萎えさせるようなコメントも見られます。このコメントを訳者が書いたのか,巻末の解説者が書いたのか知りませんが,はっきりいって非常に不愉快でした。

「ロズウェルのティアラ」
 金庫に仕舞ってあったティアラのダイアモンドが盗まれた。犯人は隣室の娘なのか…
 「誰も知らない金庫の番号がなぜ開けられたのか?」の謎解きは,いまひとつでしたが,ダイア紛失の謎解きの伏線がよかったです。それにしてもこの頃の人は,奥ゆかしかったんですね。
「緑の目の怪物」
 妻の秘密めいた行動に疑惑を抱いた夫は…
 ミステリの謎としてはもの足りないですが,ラストが苦笑させられます。ところでこのタイトルの意味はなんなのでしょうか? 英語の言い回しなのかな?
「絵葉書の謎」
 ダイアを盗んで逃走した従業員から3通の絵葉書が届いた。そこには奇妙な暗号が…
 たしかに暗号は「初歩的」なものでしょうが,設定は凝っていて楽しめました。“思考機械”が真相に気づくきっかけも巧いですね。
「壊れたブレスレット」
 女盗賊が侵入,価値のなさそうなブレスレットを出せと迫るが…
 この作品もなかなか凝っていて,素直に読めば楽しめそうなところですが,「冒頭のコメント」がめちゃくちゃにしています。

 このほか,本作品集には“思考機械シリーズ”唯一の長篇(中編?)「金の皿盗難事件」が収録されています。立て続けに謎が謎を呼び,それなりにアップテンポに展開します。でもメインで登場する女性キャラがどうも馴染めませんねぇ。それに普通気づかないかなぁ,仮にも自分の恋人なんだから・・・。

98/07/01読了

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