シャーリイ・ジャクスン『たたり』創元推理文庫 1999年

 ひっそりと山中にたたずむ<丘の屋敷>。そこに集まった4人の男女―モンタギュー博士,ルーク,セオドア,エレーナ。奇怪な噂が絶えず,また住む者を不安にさせる造りの屋敷で,つぎつぎと起こる怪現象。そしてエレーナは,<屋敷>に強く感応しはじめ・・・

 かつてハヤカワ文庫から出ていた(出ている?)『山荘綺談』の新訳版です。『山荘』の方は,もうはるか以前,中学の頃に読んだ記憶がありますが,「読んだ」ということしか憶えていません。きっと,そのときはあまり楽しめなかったのでしょう。ちょうど映画『エクソシスト』が大ヒットし,コミック界でもつのだじろう『うしろの百太郎』『恐怖新聞』が一世を風靡した「オカルト・ブーム」の頃だったので,そういった「ノリ」を期待した部分があったからかもしれません。

 まぁ,そんな「昔話」はともかく,ショッカー的要素の強い昨今のホラー作品とは異なる,じつにオーソドックスな「幽霊屋敷物」的な雰囲気をたたえた作品です(原作の初出は1959年,40年前の作品です)。<丘の屋敷>にまつわる因縁話,夜中に主人公たちを襲うポルタ・ガイスト現象,セオドアエレーナが目撃する幻の「ピクニック」などなど,古典的な怪奇小説の定番とも言えるアイテムが続々と登場します。とくに,闇の中で眠っているエレーナが握っていた「手」のエピソードは,ネタ的にはよく見かけるものの,描写がうまく,「ぞくり」とさせられるシーンです。

 そういった古典的なテイストを味わえる一方で,本作品には,のちの「モダン・ホラー」に通じる部分もあるように思います。それは主人公のひとり(というか,主人公そのものである)エレーナ・ヴァンスのキャラクタ設定です。彼女は,11年もの間,病気の母親の看病をしつづけ,母親の死後は,実の姉夫婦の家に居候する「居場所のない」オールド・ミス(死語)です。他人と,世間とつきあうことが苦手で,つねに心の中に不安定なところを抱え込んだ人物として描かれています。
 彼女は,<丘の屋敷>で知り合った,陽気で積極的なセオドアや,「放蕩息子」であるルーク・サンダースンに対する愛情や反発,依存心に翻弄されながら,しだいに<屋敷>と感応していきます。そこには,曰く因縁を持った幽霊屋敷,そこに「棲みついている」幽霊・亡霊が,住む人々に危害を加えるという古典的なストーリィとは違う,外的な恐怖と内的な不安とが互いに共鳴し,増幅していく「モダン・ホラー」的な特徴をみることができます。スティーヴン・キングが,彼のエッセイ集『死の舞踏』の中で,本書を絶賛し,『シャイニング』の執筆に多大な影響を与えたそうですが,彼の作風からすると,それもむべなるかな,と頷かせます。
 オーソドックスでありながら,モダンでもある―そんな印象を与えてくれる作品でした。

 ところで,霊能力者(?)モンタギュー夫人に言わせると,「本が置いてある部屋では,霊体の具現化現象がかなりよく起こるんです」とのこと。皆さま,ご注意を(笑)。

98/07/25読了

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