愛川晶『黄昏の獲物』カッパノベルズ 1996年

 栗村夏樹の友人・桂木亜沙美が誘拐された。犯人からは1億円の身代金要求のファックスが送られてくるが,その後,連絡がいっさい途絶える。そんなとき,埼玉県秩父で女性の焼死体が発見され,残留品から亜沙美の可能性が指摘された。刑事と亜沙美を治療した歯科医が現地に飛び,鑑定の結果,亜沙美ではないとされ,ふたつの事件は別のものとされる。そして再び,犯人から電話が・・・。「少女剣士探偵」栗村夏樹の推理が行き着いた真相は?

 テンポよくストーリーが進行し,また要所要所で山場があり,読んでいて小気味よいです。トリックも小粒ながら,説得力のあるものだと思います。とくに各章にはさまれた「フラッシュ・バック(手記)」と称された部分が効果的に使われています。最後で「ああ,そうか」と納得しました。ただちょっと伏線が見え見えの部分もあり,犯人の見当がついてしまうのは,ミステリ読みの悪癖でしょうか。
 それからクライマックスシーンは,「○曜サス○ンス劇場 夕陽は見ていた! 美人女子大生誘拐事件に隠された悪魔のトリック! 少女剣士探偵・栗村夏樹の事件簿パート1」 といった感じで,ちょっといただけません。あまりに無謀というか,お約束というか・・・。出来過ぎです。それでも,先にも書いたようにストーリー展開はスムーズで,手慣れた感じで読みやすい点,おすすめです。

 ところで本編の主人公・栗村夏樹は,シリーズキャラクターになるのでしょうか?(もうなっているかもしれないけれど)。どうも死んだ父親が刑事らしくて,おまけに夏樹自身はそれを知らないようで,さらに「悲惨な最期」なんていう,思いっきりの「引き」も残している以上,夏樹自身が主人公でなくても,やっぱり別編が書かれるんでしょう。牧田刑事とのその後も気になりますし。このキャラクターはけっこう気に入っているので,楽しみです。

97/03/16読了

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